多彩な趣味と人生経験によって次世代の脚立を生み出す

長谷川工業株式会社 取締役副社長、マーケティング本部長 | 長谷川義高

メタリックで無骨といったイメージの脚立にデザイン性を盛り込むことで、オシャレなインテリアという新たな価値を与えたlucano。その生みの親である長谷川工業の副社長・長谷川義高さんに画期的な商品開発の裏側、多彩な趣味のお話を伺いました。

長谷川義高

長谷川工業株式会社 取締役副社長、マーケティング本部長 | 長谷川義高

はせがわよしたか/1969年生まれ。はしご・脚立のトップメーカー・長谷川工業の創設者である長谷川義幸氏の三男として生まれる。トステム、ソニー生命などでの営業職を経て2005年、長谷川工業に入社。2007年にマーケティング本部を設立し、“lucano”など、デザイン性の高い商品やデジタル分野の新事業などを行い、新たなマーケットを開拓している。

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問題解決から始まるオリジナル商品の開発

建設現場や高所作業、そして日常生活まで、さまざまな状況で私達の生活をサポートしてくれる脚立。誰もが使ったことのあるこの脚立が今、カジュアルかつ機能的に発展を遂げていることをご存知でしょうか。大阪に本社を置くはしご・脚立の老舗メーカーの長谷川工業は、近年、ファッション性の高い脚立や踏み台などを次々にリリースし、これまでにないマーケットを開拓しています。

 

これらのユニークなアイデアを発信しているのが、同社の副社長・長谷川義高さん。それまでの業界にはなかった革新的な商品は、無骨な脚立イメージの大きく変え、長谷川ブランドを確立させています。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

大阪・江戸堀にある長谷川工業の本社にてインタビューが行われました

長谷川さんが創業60年を越える老舗の改革に乗り出したきっかけには、同業他社との差別化という大きな命題がありました。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「長谷川工業は創業以来、父が強力なリーダーシップで経営していたので、社員も父の一声で動くという態勢ができあがっていました。兄が社長に就任したことで、そんな空気もいくらか変わってきたのですが、そこに僕が入ったことでさらにバランスが変わり、新しいものが生まれるように。そこからどんどん新しい取り組みを始めていったのですが、僕が社の中で心がけていたのが、他社と価格競争にならないようなものづくり、そしてブランディングを行い、しっかりと利益を上げることでした」

マーケティング本部長として、取材対応や広報の業務もこなします

長谷川さんのものづくりには、社会の中で自社の商品がどのように活用され、不便を解消できるかという問題解決に対する思いが根底に存在しています。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「脚立って一般家庭の中でも多くの世帯で所有されていると思うのですが、意外と使われることが少ないんですよね。たとえば天井の電球を変えるにしても、だいたいの人は椅子や机にっちゃうんです。事故にも繋がりやすいし、危ないのになんでだろうと思ったのですが、それは、おそらく保管場所にあるんです。みなさん、だいたい押入れや物置に、脚立を直していると思うんですけど、ちょっとした作業でそれを取りに行くのって、ちょっと面倒ですよね。だったら、もう出しっぱなしでも違和感がない、インテリアとして成立するようなデザイン性の高い脚立を作ったらいいんじゃないかと考えたんです」

長谷川さんの斬新な提案により生み出された商品“lucano”は、その洗練されたデザインが話題を呼び、またたく間にヒットを記録。ファッションブランドや著名アーティストとのコラボレーションも積極的に行い、“おしゃれな脚立”のイメージを世間に浸透させました。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

業務用の主力商品はインハウスのデザイナーが担当しますが、lucanoのような先鋭的なデザインについては、考え方が今までにない新しい発想が必要な為、外部のデザイナーに依頼しています。lucanoは2009年に初めてリリースしたんですけど、サイズが低いものでも1万円ぐらいするし、デザインも前例がないものだったし、おそらく当時、みんな売れないと思っていたでしょうね(笑)」

独創的なデザインのlucanoは2013年度のグッドデザイン賞を授賞

あまりの斬新さから、世間の反応が予測不能だったlucanoですが、現在では同社を代表する看板商品の一つとなり、新たなマーケットも開拓しました。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「これまで当社の商品にギフトとして喜んでいただけるようなものがなかったんです。普通に考えて、『よし、お祝いに脚立を贈ろう!』なんて思わないでしょう(笑)。それが、lucanoに関しては、友人などにプレゼントすると、ものすごく喜んでもらえるんです。正直、そんなに安い商品でもないけど、だからこそ、ものやライフスタイルにこだわりを持っている方々に訴求ができたのかと思います。lucano以外でも、ちょっとした踏み台や子どもさんのテーブルなどに使えるPurillという商品もあって、こういったポップな商品の開発は今後も進めていきたいですね」

営業の最前線で活躍し、長谷川工業へ

長谷川工業株式会社は1956年、長谷川さんの父・義幸さんが「長谷川商事」の名で創業。60年以上にわたって脚立や工事現場の足場といった足場関連製品パイオニアとして現在に至るまでトップランナーとして走り続けています。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「家に関西のお偉いさんとか会社関係のお客さんがよく来られていたので、子どもの頃から、うちの父親は社長なんだなというのはなんとなく感じていて、小中学生ぐらいまでは、自分も大学を卒業したら父の会社で働くのかなとうっすら思っていました。ところが僕はさっぱり勉強ができなくて(笑)。大学受験も失敗したので、それならもう働くしかなく、当時サッシメーカーのトステム(現在は株式会社LIXILのブランドとして展開)に就職しました」

野球やバレーボールに打ち込んでいた少年時代の長谷川さん

トステムの営業マンとして7年務めた長谷川さんは、サラリーマンとして経験を重ねてきましたが、思いもよらないきっかけで異業種への転職を決意します。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「ある日、仕事帰りに心斎橋をスタスタ歩いていたら突然声をかけられて、名刺を渡されたんです。それが、後に転職するソニー生命の所長。ライフプランナーとしてお誘いをいただいたのですが、当時は自分の仕事に対してストレスもなく、一生懸命やっていたので、その時はお断りしたんです。でも3年間、ずっと声をかけ続けてくれたことで気持ちに迷いが出始めて、そうなったら、もう新しい一歩を踏み出すタイミングだろうと、入社を決意しました」

保険という異業種へと転向した長谷川さん。苦労しながらも営業成績を積み重ねていきました

未知の領域である保険業界へと身を投じた長谷川さんですが、前職から持ち続けている営業マンとしての信念を貫くことで、存在感を発揮していきます。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「ソニー生命って新卒は採らず社員はさまざまな業界でのトップセールスマンをピックアップし、ヘッドハンティングするんです。大卒で既婚者というのが採用の条件で、僕は当時、どちらも満たしてなかったのですが、なんだろう…女の子とご飯を食べに行こうと思ってカッコつけてる姿が、できるやつと映ってしまったのかも(笑)。まったく初めての業種でしたが、先輩方にセールスのスキルを教えてもらって自信を付け、当時は保険のセールスマンの上位5%しか入れないMDRTという組織に入会していました。その当時の経験は、今の仕事にも大いに役立っていますね」

保険業界で順調に業績を積み上げていた長谷川さんは、父や兄が営んでいた長谷川工業から入社の誘いを受けます。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「当時、成績優秀な社員を表彰するコンベンションがハワイで行われることになり、せっかくだからと妻と両親も招待したんです。豪華なホテルを借り切った大規模なコンベンションだったので、中小企業の社長である父から見たら、『コイツは、もしかしたらすごく仕事ができるんじゃないか?』と勘違いされて(笑)。最初に誘われた時は、お断りしたんですけど、そのうち、『ここまで成長できたのも両親、そして社員のみなさんのおかげ。自分に何かできることがあれば』と考えるようになり、長谷川工業でやっていこうという気持ちに変わりました。兄が先に入社していたというのも心強かったですね」

入社当時、長谷川工業は、世代交代と共に改革のタイミングを迎えており、長谷川さんの入社をきっかけに、さまざまなアイデアを打ち出していくことになりました。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

スタッフとの連携をはかりながら、常に先鋭的かつ世の中のニーズに沿った商品作りに取り組んでいます

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「最初は営業部に入ったんですけど、業界の事情がわからなかったこともあり、どうもうまくいかなくて。僕保険会社時代は新規訪問から契約に至るまで全て1人で行うというスタイルだったのですが、チームを動かしていくマネージャーという役割り、そして毎月の結果を求められる部門での限界を感じました。それで兄の助言で、中長期的な戦略を組むためのマーケティング部署を設立したんです。短期的なノルマや目の前の数字だけを追いかけているとなかなか新しい事にチャレンジできないので、この部署を作ることは必要だったのかなと思います」

アイデアの源となる多彩な趣味

豊富なアイデアで業界の常識を覆している長谷川さん。ヒット商品を生み出し続けている背景には、スポーツから芸術まで、幅広い分野に精通する趣味人としての経験がありました。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「スポーツは子供の頃に少年野球やバレーボールをやっていて、ゴルフも30代半ばから父の付き添いではじめました。体を動かすことが好きで、自宅内にも筋トレ用のジムを設け、毎週1時間ほどトレーナに来てもらってトレーニングしています。僕は基本的に趣味と仕事は分けず、地続きだからこそ面白いと考えているのですが、書画だけは別。仕事のことばかり考えがちな頭をスッキリさせるために墨をすり、字を書くことに集中する時間や空気感がいいんですよね。最近、休みがちだったので、これもまた再開したいです」

自宅内のトレーニングジムで筋トレに励む長谷川さん

仕事も趣味も大いに楽しむ長谷川さんならではの、社を巻き込んだユニークな取り組みも。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「僕を含め、全社員自由参加の動画コンテストをやっているのですが、これは、デジタルを使った事業をやっていく中で動画編集が必要不可欠なスキルになると思ってはじめたものです。僕もコンテスト用に、学生時代に好きだったビリヤードを久しぶりにやって、プレイの様子を収録。偶然でしたが、ナインボールを最初から最後まで失敗せずにストレートで入れる“マスワリ”を達成できました(笑)。それを自分でテロップや効果音を入れながら、せっせと編集したのですが、若い社員たちの発想豊かな作品を見ると、負けていられない!と気持ちが高まりますね(笑)」

学生時代以来というビリヤードに挑戦。マイキューを使ってマスワリを達成しました

さらに、多彩な趣味の中でも特に思い入れの深い車は、コースを貸し切り、ドライビングレッスンのイベントを催すほど。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「年に1回、兄と一緒に車好きな経営者を誘って、自分の所有する車のポテンシャルを出して走るイベントを行っているんです。日本の公道ってスピードを出して走れないので、どれだけ性能の良い車を持っていても、その実力を知る機会がまったくないんですよね。まるでサラブレッドに乗ってロバのスピードで走っているようなもの。そこで泉大津フェニックスを借り切った特設コースにパイロンを立てて、ドライバーテストのような感じで思い切り走ってもらうんです」

長谷川工業ではプロドライバーのサポートを行っており、長谷川さんも兄の泰正さんと共にサーキットに出向くことも。(左から)社長の泰正さん、プロドライバー脇阪選手、長谷川さん

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「これは走りを楽しんでもらうと同時に、思い切りブレーキを踏むとどれぐらいスピンするかなど、車の性能の限界を肌で感じてもらうという意味合いもあります。それを通して安全運転に対する意識も高めてもらうという。本道から脇道に逸れた時に、どこまでだったら大丈夫とかって経験してないとわからない。これってある意味、人生にも当てはまりますよね」

こだわりが強いユーザーへの訴求で道を拓く

長谷川工業を生まれ変わらせるため、数多くのアイデアを生み出し続けてきた長谷川さん。今後も、こだわりあるものづくりへの思いを胸に、未来への展望を描いています。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「まだまだ形にしていないプランがたくさんありますが、基本的にカタチあるモノを残していきたいというのが僕の変わらない想い。結局、自分が生きていて残せる存在価値や証って、プロダクト=商品を残すことと思っています。それと、あとは会社の文化をどう継承するか。長谷川工業は、こんな革新的なものを作ってきましたよという精神が後世にまで受け継がれていけばいいなと思っています」

個性的な商品を提供し続けている長谷川工業が現在、注力しているのが、2021年に販売を開始した脚立「BLACK LABEL」。引き締まったルックスに加え、利便性も抜群で、早くも業界でヒットを記録しています。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「最近は職人さんも道具に対するこだわりが日々強くなってきたので、ビジュアル的にも個性が際立つような商品が求められるようになってきました。BLACK LABELは、この真っ黒な見た目が印象的なのはもちろん、内部の赤いバーに触れればワンタッチで折りたたみができるので、片手がふさがっていても楽に持ち運びができるんです。最大で31センチまで伸縮も可能なので、現場作業では大活躍することうけあいです。本当にカッコいいので、機会があれば、ぜひ実際に商品を見ていただきたいですね」

長谷川工業の最新作「BLACK LABEL」。スタイリッシュな見た目と抜群の機能性で、早くも建設業界の話題に

さらには、商品購入の際、設置状況をシミュレーションできる「メーカーパーク」というWeb AR配信サービスも開発。設置のイメージが掴めたらすぐに商品購入サイトへリンクできるなど、脚立を身近に感じられるための創意工夫が込められています。

長谷川義高さん(以下:長谷川さん)

「このARサービスも、僕が基本としている問題解決にもとづいてスタートしたものです。東京の行きつけのレストランでホールスタッフの方から『長谷川さん、脚立ほしいんだけど』と言われたので使いみちを聞いたら、天井の電球を変えるために必要とのこと。ただ、その位置がめちゃくちゃ高くて、どのサイズの脚立を勧めたら良いか分からず、当社の営業マンに見てもらおうと思ったんですね。でも脚立1台のためだけに現場に来てもらうのも忍びないので、なにか良い解決方法がないものかと、ちょっと考えたんです」

自宅に脚立を置いたイメージを映し出せる「ハセガワAR」のサービス。長谷川工業の公式サイトからアクセスできます

「結果的に、距離を測るためのアプリを応用して、その空間に最適な脚立を提案できるシステムを作ろうと考えました。脚立って、お店で買うと家に持ち帰った時にサイズが違っていたということが結構多いので、それを解消できるなと思って。ただ、採寸できるだけではおもしろくないので、AR制作をしている友人の経営者に相談し、Web上で再現できるWeb AR配信サービスを完成させました。ぜひ、当社のサイトからアクセスして、お試しください」

「カタチあるモノを作ることで自分の生きた証を残したい」と語る長谷川さん。今後も常識を覆す斬新な脚立の登場が期待されます

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長谷川工業株式会社

長谷川工業株式会社

1956年に創業した仮設機器メーカーの老舗企業。看板商品の脚立だけでなく、イベント用の什器やキックスクーター、トラック用のアクセサリーなど多彩な商品を開発・販売している。

長谷川工業株式会社

住所/大阪市西区江戸堀2丁目1-1 江戸堀センタービル14F

電話/06-6449-1845

※ショールームなどは併設していないため、一般のお客様の来社は受け付けていません