八尾で培った伝統の技。フライパンJIUで世界市場へ挑戦

藤田金属株式会社 代表取締役 | 藤田盛一郎

今、大阪・八尾で生まれた、あるフライパンがキッチン用品の世界で注目を集めています。その商品の名は「フライパンJIU」。大阪で70年以上の歴史を持つフライパンメーカー・藤田金属株式会社が、スタイリッシュなプロダクトデザインで話題のTENTと共同で生み出した鉄製フライパンです。海外でも高い評価を得るこのフライパンが生まれたきっかけには、4代目社長・藤田盛一郎さんの大いなるチャレンジ精神が息づいています。

藤田盛一郎

藤田金属株式会社 代表取締役 | 藤田盛一郎

ふじたせいいちろう/1980年生まれ。大阪でフライパンや鍋の製造を行う老舗メーカー・藤田金属株式会社を経営する家に生まれる。2003年、大学卒業と同時に家業を継ぐべく藤田金属に入社。営業と開発を担当し、顧客のリクエストに応じてカスタマイズする「フライパン物語」、デザイン事務所・TENTとのコラボレーションで生まれた「フライパンJIU」など、オリジナリティあふれる商品を世に送り出している。

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調理器具から皿に。フライパンJIUがオンリーワンな理由

着脱式で取っ手を外すとそのまま鉄の皿として使用できるフライパンJIU。その洗練されたデザインには、開発を企画した藤田さんですら驚きを隠せなかったのだとか。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「TENTのお二人(共同代表の青木亮作さん、治田 将之さん)には、フライパンJIUを作ってもらう以前から、試作品製作のお仕事をいただいていて旧知の間柄でした。ある時、僕が仲良くさせてもらっている平安伸銅工業の社長さんが、TENTさんデザインの突っ張り棒で展示会の賞を受賞され、そのことについてお話を伺ったところ『藤田さん、TENTさんと仕事していますよね。騙されたと思って一度、コラボしてください。絶対に面白いものができるから!』と激しくおすすめされたんです」

藤田金属本社とオンラインでインタビューを行いました

「ちょうど新しいことをしたいと思っていた時期だったので、それで背中を押されて着脱式のフライパンをお願いしたら、最初に鉄製の皿を出されました。『フライパンを頼んだんだけど…』と思ったら、今度は3Dプリンタで制作した取っ手が出てきて、実はこういう風にしたいんですと着脱の仕組みを見せてくださって。その瞬間、『これは絶対にすごいものになる!』と確信しました。販売を開始してから、世界的に有名なドイツのプロダクトデザイン賞であるレッド・ドット・デザイン賞に出展したところ、なんと賞を獲得。こんなにデザイン性が高く、機能的なフライパンは世界的にも例がない!と思っていましたが、この受賞で大いに自信が付きました」

デザイン事務所TENTの共同代表である青木さん、治田さんと

フライパンJIUの大きな魅力は、スタイリッシュなデザインはもちろん、長年の職人技から生み出される使い心地の良さ。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「へら絞り加工やハードテンパー加工、最後の焼きなど、当社が受け継いできた鉄フライパンの製造技術を駆使し、丁寧に作っているので、一度買えば数十年は使っていただけます。鉄フライパンは野菜炒めをシャキシャキに、チャーハンをパラパラに仕上げられるなど高温調理に最適。特にフライパンJIUは形のバリエーションが豊富で、卓上のIHのコンロに置いて焼き肉やすき焼き、深型なら揚げ物、スクエアはバターを1個落として食パンを焼くなど、さまざまな料理に対応します。調理して熱々のまま食卓に出せるし、洗い物が一個減るという意味で、今の時代に適したサステナブルな商品であると言えますね」

シンプルでスタイリッシュなフライパンJIU。皿部分は黒皮鋼板、取っ手部分はブナ材とウォルナットが使用されています

丈夫で多機能というセールスポイントに心惹かれるフライパンJIUですが、藤田さんはあくまでフライパン選びの選択肢の一つであってほしいと語ります。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「鉄って火が通るまで時間がかかるので、朝の忙しい時なんかはアルミ製のフッ素加工のフライパンを使っていただき、週末で時間があり、こだわった料理がやりたいとなった時は鉄製のものを使う。用途に応じて2種類使い分ければ長持ちさせられるし、道具を捨てる心苦しさが少しでも減らすことができるかなと思います。そんな中で鉄製の魅力に気づいていただけたら、フライパンJIUを、ぜひ一度、プラスアルファのフライパンとしてお試しいただけたらと思います」

フライパンJIUによる料理の盛り付け。コンロでの調理からそのまま食卓に出しても違和感がありません

受け継ぐ伝統、新時代への順応

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

藤田金属工業は1951年、藤田さんの祖父が創業。アルミ製のカップに始まり、現在の主力商品であるフライパンに至るまで、一貫してキッチン用品の製造に注力。幼い頃から仕事の様子を間近で見ていた藤田さんは、ごく自然に家業を継ぐという将来像を思い描いていました。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「幼稚園の頃から『あんたが後を継ぐんやで』って祖父に言われ続けていたんです。土日は子どもながら販売の応援に行っていましたし、中学生の時は夏休みのバイトみたいな感覚で手伝いに行っていたので、自分の中では、大学を卒業したら、そのまま藤田金属に入るものとごく自然に思っていました。だから、他の子たちのようにスポーツ選手やパイロットになりたいみたいな思いは特になくて、家業をどうしていくかということをずっと考えていました」

現在も仕事を共にする弟たちと。中央が藤田さん

70年を超える歴史の中、会社は藤田さんが4代目社長となるまでに幾度となく苦難も経験してきました。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「僕の父が10年前に3代目社長になったのですが、その頃がいちばんしんどかったですね。当時、量販店やホームセンターがメインの売り先だったのですが、競合他社も多いからどうしても価格的に安くせざるを得ないし、売れるような商品を作ると半年後には海外の会社がすぐに真似して同じような商品をさらに安く販売する。本当に赤字続きで、従業員の給料も銀行からなんとかかき集めていたような状態でした」

先代社長である父・俊介さんは社長の職を藤田さんに譲った後も現役の職人として活躍しています

事態を打開するため藤田さんが取り組んだのは、長年培った職人技を生かしたフライパンの開発でした。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「八方塞がりな中、僕らに残されたのは技術だけ。それを生かして、生産量はアルミ製より落ちるけど、長年使える鉄フライパンに力を入れようということになりました。売り先も既存のものだけでなく、東京のギフト・ショーや展示会、ちょうどその頃、伸び始めていたネットショッピングにも範囲を拡大。さらには、オーダーメイドの品をカスタムする『フライパン物語』という商品も展開して好評をいただいたのですが、これについては他社が真似できないという強みがある反面、あまりに手間ひまがかかるので、数を多く作れないという課題がありました」

藤田金属のオリジナル技術であるハードテンパー加工。火の加減や焼き具合は職人の勘が重要となってきます

業務展開に行き詰まった藤田さんでしたが、この悩みが結果的に新たなビジネスモデルの確立につながります。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「ターゲットを個人のお客様から法人に変えたんです。企業のノベルティなどオリジナルのフライパンを作ることができますと発信したところ、すぐにテレビショッピングから1万セットの注文をいただきました。そこから食品会社の景品、アパレルブランドとのコラボなど、小ロットでオリジナル商品が作れる利点を活かすことができるようになりました。ノベルティと聞くと、既存の商品にちょっとネームが入ったぐらいのものを想像されると思うのですが、当社では、そこは分け隔てなく、本格的なフライパンを作りますので、実際、現物を手にとったお客さまは驚かれたと思います」

新たな方向性を確立した藤田さんは、2020年12月に4代目社長に就任。それと前後して、2人の弟とともに会社のブランディング強化に取り組み、カジュアルな藤田金属のイメージを確立させました。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「僕は22歳の時に入社して、会社をこうしたいというアイデアを29歳ごろから少しずつ形にしてきました。ここ数年は、社屋の建て替えやショップの併設、You Tubeの開設など、特に変化が大きかったですね。従業員の服装も、昔はザ・作業着という感じだったのですが、ショップから工場を見下ろせるようにしたところ、『お客様に見られるのなら、ちょっと服装は考えてほしい』と声が上がり、コーデュロイジャケットとデニムパンツで統一。一気に雰囲気が若返りました。求人に関しても、以前なら60代ぐらいの人しか応募がなかったのが、今では20〜30代が大半になっています」

本社内に併設された直販ショップ。大きな窓からは工場作業の様子を見ることができます

世界進出を果たし、製造業の地位向上を

新たな方向性を見出し、ますます業績を伸ばす藤田金属。今後の展開については、フライパンだけにとどまらない商品開発にも力を注いでいきます。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「当社はもともとキッチン用品がメインなのと外出自粛で、家で料理をされる方が増えたことから、新型コロナウイルスの感染拡大で大きな影響は受けませんでした。ただ、そこで考えたのが、『これがコロナではなく、もし世界的にガスの使用が禁止されたらどうなるのだろう』ということ。おそらくフライパンは作ることも売ることもできないので、先行きを考えて今ある金属加工の技術で、もう一つ大きな柱を作っておく必要がある。そこで着手したのが、LEDライトや植物の鉢といったツール系商品の開発です。会社にとっても刺激となり、現在では、これらの商品からフライパンを知っていただくなど相互効果が生まれています」

藤田金属が新たなカテゴリとして取り組んでいるツール系アイテム。こちらは照明器具「TABLE LAMP ICHI」

フライパンJIUの開発当初から計画していた海外進出も、コロナ禍により中断していましたが、いよいよ本格的に再始動の準備に入っています。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「シカゴのハウスウェアショー、ドイツのアンビエンテ、パリのメゾンドオブジェなど海外の有名な展示会は以前から何度か見に行っていましたが、当時は普通のフライパンしか作っていなかったので、とても、そんなところで戦えないと、ただただ憧れの目で見るだけでした。しかし、フライパンJIUができて2020年の1〜2月にパリとドイツの展示会にフライパンJIUを出展。やっと軌道に乗り始めたのですが、その後すぐコロナになって、同年8月に予定していたニューヨークでの展示会も含め、いったんすべての予定が白紙になってしまいました」

2020年初頭にパリとドイツの展示会に出展。世界に類を見ないフライパンJIUは大きな話題となりました

「ただ、レッド・ドット・デザイン賞の効果が大きかったのか、2021年頃から北米やヨーロッパからの注文も増えてきて、ここは今後、海外での主戦場として戦っていきたいと思っています。展示会でドイツのメーカーなどを見ると、みなさん自社の商品に対して本当に自信を持ってアピールされている。ブランディングがしっかりしているから、取引先に頭を下げまくる日本と違って製造業が確固たる地位を築いているんだなと痛感します。彼らのスタンスを見て、本当にたくさん大事なことに気づかせてもらいました」

さらに、国内でも知名度アップに向け、主要都市での店舗展開を目指します。

藤田盛一郎さん(以下:藤田さん)

「ポップアップストアは百貨店などでたまにやっていて、お話もたくさんいただくのですが、なにぶん少人数の会社なので、販売スタッフを付けるといったことを考えると、あまりたくさん開催できず、今は抑え気味にやっています。ただ、関西以外の地方では、なかなか商品を手にとって見ていただく機会も少ないので、今後は、ブランディングの意味も込めて、主要都市に一つずつお店を置きたい。そうした場所から、鉄フライパンの魅力を広く発信していきたいです」

藤田さんの祖父で創業者の健次さんと。70年を超える藤田金属の歴史は新たな世代に脈々と受け継がれています

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藤田金属株式会社

藤田金属株式会社

加工から製造・梱包までの作業を一貫して自社で行っているフライパンメーカー。フライパンJIUをはじめとした商品が購入できる直販ショップも建物内に併設している。

藤田金属株式会社

住所/大阪府八尾市西弓削3-8

電話/072-949-3221

営業時間/9:00〜17:00(併設の直販ショップ営業時間)

休み/土日祝(併設の直販ショップ)

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