全国を駆け巡りながら「食を通した地方創生」にまい進。大学院での学びを得て広報の新しい働き方を切り開く

株式会社バルニバービ コミュニケーションディレクター | 福地恵理

外食産業の中で、新たな店舗や商品の魅力を伝える広報は、業務を展開する上で重要な役割を担っています。日本の企業の中では、軽視されがちな『広報』のスペシャリスト育成を目的に、2017年には専門の大学院が開校。株式会社バルニバービの広報である福地恵理さんも同校で得た学びを、新たな事業の展開に繋げています。

福地恵理

株式会社バルニバービ コミュニケーションディレクター | 福地恵理

ふくちえり/1982年生まれ。学生時代から飲食業に従事し、フリーランスとして10社を越える企業でホールサービスやレセプショニストとしての経験を積む。2010年に株式会社バルニバービに入社し、代表秘書と広報を兼務。2015年からはIRも包含した企業広報に就任し、兵庫県・淡路島における地方創生のプロジェクトを担当している。2019年、広報・情報の専門職大学院である社会情報大学院大学のカリキュラムを修了。

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ステップアップを目指していた頃に出会った、広報に特化した大学院

小学校・中学校の義務教育、そして高校を経て大学に進学というのは、現在の社会の中では定番の筋道のように捉えられています。しかし、教育のあり方にもこの数年で変化が現れ、社会人として働きながら、大学で専門的な知識を学ぶという人が増え始めています。経営学を学ぶMBA(経営学修士)などは、アメリカの大学で古くから採用され、日本でも導入を開始。経営者をはじめ、さまざまなジャンルの人々が受講しています。2017年には、日本で唯一となる広報・情報の専門職大学院、社会情報大学院大学が開講し、こちらも多くの受講生が門戸を叩きました。

大阪に本社を置き、全国で飲食店を展開している株式会社バルニバービの広報・福地恵理さんも日々の業務の傍ら社会情報大学院大学に1期生として入学。広報としてより深い専門知識を得ると同時に、常に抱えていたという学びへの渇望を潤すため、多忙な日々の中、キャンパスへと通い詰めました。

福地恵理さん(以下:福地さん)

バルニバービが手掛ける大阪・中之島のレストラン「GARB weeks」でインタビューを行いました

複数の業務を兼任しながら多忙な日々を送っていた福地さん。会社が上場したタイミングで部署異動があり、時間の使い方が変わったことで大学院への入学を決意しました。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「バルニバービに入社して、秘書と広報を兼任しながら24時間フル稼働みたいな生活をしていました。仕事にやりがいを感じ、ただただ夢中でしたね。2015年に会社が上場したことがきっかけでIRを担当することとなり、秘書業務ははずれ、広報とIRの専属になりました。そうすると、これまでなかった時間ができ、何かやりたいなと思っていたところに社会情報大学院大学の1期生募集のお知らせを発見したんです」

社会情報大学院大学での研究報告の様子。すでに社会人として働いている受講生たちが広報や情報学を追求し、それぞれの業務にフィードバックさせます

福地恵理さん(以下:福地さん)

「広報やコミュニケーションに特化した専門の大学院ということ、また1期生というのにも魅力を感じ、出願書類をダウンロードして期限ギリギリで応募しました。これまでにも広報や情報学の知識を深めたいと思ってセミナーを受けたり本を読んだりしていたのですが、独学でやるのも限界があるなと思っていた矢先でした。それに私は大学を3年生で中退しており、また勉強したいという思いはずっと持っていたので、まさに渡りに船な状態でした」

専門職大学院ということもあり、カリキュラムも通常の大学とは異なりますが、キャンパスライフはどのようなものだったのでしょうか。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「平日の18時半から21時40分の時間帯で2コマまで。プラス土曜日という感じで授業の日程を組んでいました。必修の他、複数の科目を選択でき、せっかく自分のお金で学校に行くのだから、元をとるぞ! と意気込んでカリキュラムを組んだら、ほぼ毎日になってしまい、さすがに取りすぎと言われました(笑)。授業内容はハウツーよりも考え方、概念を教えるものが中心で、社会学や広報の歴史など、なぜこういったマーケティングが必要なのかといったことを、専門分野の先生のもとで学びながら同級生と議論する方が多かったです」

学位取得となった修了式での一コマ。同じような志を持った同期たちとの学びあいが刺激になりました

福地恵理さん(以下:福地さん)

「大学院で得た最も大きな学びは、勉強でも仕事でも何か新しいことを始めるのは簡単かもしれないけれど、それを継続するには、信念と執念がすごく大事であるということ。『なぜそれをするのか』という原点に立ち返り、自分の中で常に問いを持ち、答えを見つけて実行することが大事だと気付かされました

大学院でより高度な専門知識を得た福地さんは、バルニバービの社内でワークショップなどを開催し、広報の強化に向けた活動を展開しています。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「取材に関しては、どんなものでも基本的に私が窓口になるようにしているのですが、出店エリアも多岐にわたるため、どうしても目が届かないところもあります。そこで、バルニバービのお店で働くスタッフが、店の魅力を最大限に伝えられるように、『彼ら彼女たちひとりひとりが広報である』と考え、育成をしていこうと思ったのです」

現在、社内で広報の育成プログラムを準備中の福地さん。店舗の魅力を伝えることにやりがいを見出すスタッフを育てたいという目標を掲げています

福地恵理さん(以下:福地さん)

「管理職を目指す人、資格をとって専門職として働きたい人、皆それぞれ目指す姿があるように、お客様のことをよく“観察”し、コミュニケーションをとることが好きというスタッフが『広報』と書かれた2枚目の名刺を持てるような環境を作りたいと思っています。スタッフの異動なども多いので、まだしっかりスタートは切れていませんが、今回、私がこういった取材をしていただいたことで、改めてちゃんと仕切り直さなければ!と決意を新たに意気込んでおります」

挫折から始まった飲食業への道

東京生まれで新宿育ちという生粋の東京人である福地さん。高校時代までは興味がなかったという飲食業界とは、どのようにして出会ったのでしょうか。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「子どもの頃から、少しでもいい大学、いい会社に入ることを目指してひたすら勉強を頑張っていました。幼少期にそろばんを習ったり、中高と数学が好きで数字に触れることが多かったので、将来数学者になりたいなぁというぼんやりした目標を持ち、大学は数学科を受験。無事、志望校に入学できたのですが、入ってから自分のやりたいことを見つめ直したら、理想と現実のギャップに挫折してしまって……」

数学者への夢を追いかけ大学合格を果たした福地さんですが、入学後に大きな挫折を感じ、将来を考え直すことに

福地恵理さん(以下:福地さん)

「学問への情熱も失い、大学で学び続けることに意味を感じなくなっていたとき、当時、アルバイトをしていた神楽坂のコーヒーショップで飲食業の奥深さを知るようになりました。 お客様の味の好みを覚え、コミュニケーションをとりながらやがて顔なじみになっていく過程がただただ楽しかったですね。数学も面白かったのですが、公式にあてはめて答えを導いていくことよりも、正解のない中毎日お客様と向き合うことのほうが楽しくなり、飲食業界で働きたいと強く思うようになり、現在に至ります」

飲食業界という新天地を見つけた福地さんは、外食産業の大手であるグローバルダイニングでのアルバイトからキャリアをスタートさせ、以後、フリーランスとして、さまざまな飲食企業で経験を積み上げます。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「いろいろな会社で働かせていただき、自分は何が好きで、どこに合っているのかを知るために、バーテンダー、ウェイター(ホールスタッフ)、キッチン、レストランのゲストリレーション、ホテルのルームサービスなど、さまざまな職種を経験させて頂きました。その後、2010年に現在の所属先であるバルニバービに入社するのですが、この会社で働きたいと思った決め手は、会社の理念が『食を通してなりたい自分になる』ことで、定型の仕事のマニュアルがないことでした」

福地さんが現在も籍を置くバルニバービの代表・佐藤裕久さんは、「人々のライフスタイルに溶け込む地域に根ざした店づくり」を軸に全国にカフェレストランを展開しています

福地恵理さん(以下:福地さん)

「体力的に現場で働くことが厳しくなり、どこかで腰を据えて働きたいと考えていたときに、偶然、求人を見つけ、面接を受けました。当時、実はバルニバービのことは知らなかったのですが、社名に惹かれたのは覚えています。面接の時、代表に『ここでどんなことがしたい?』と聞かれたので、自分が今まで感じてきた現場でできる集客の限界を伝えたところ『じゃ、それやったらええ!』とお言葉をいただき、とんとん拍子で入社が決定。半年経たないうちに東京での旗艦店(蔵前のMIRROR)のオープンがあり、社長秘書として働きながら “広報”的な仕事に従事することとなり、窓口として動くようになりました」

社内で唯一の広報となった福地さんですが、広報の仕事は未知の領域。右も左も分からない状態でのスタートでしたが、周囲の協力を得ながら業務の基礎を会得していきました。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「取材を受けること自体が初めての経験だったので、一つ一つやりながら覚えました。商品やお店の魅力を伝えるためのリリースも、語彙力がなく、よく深夜まで雑誌を読んだり、国語辞典とにらめっこしていました。お仕事で交流のあったライターさんからも色々学ばせていただきました。伝えたい人に届けること、そのために自分自身の視点や文章力を磨くことはもちろん、グラフィック、コピーライター、WEBデザインなど、社内メンバーも一緒になって、お店の強みや魅力を作り上げています」

とあるマラソン大会にて、バルニバービのチームで参加。自由でアットホームな社風は福地さんの可能性を存分に押し広げました

都会育ちだからこそ感じた、地方の豊かさとこれからの可能性

地方創生に注力しているバルニバービでは、現在、淡路島の開発プロジェクトを展開中。福地さんも中心メンバーとして連日現地に赴き、都市部では感じられなかった充足感に包まれながら業務にあたっています。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「淡路島は2010年頃に食材のお付き合いからはじまり、本格的に動き出したのは2019年からです。現在、当社では淡路島の不動産を取得しながら、主に西海岸の開発を進めています。レストランに始まり、海を目の前に滞在できるホテル、BBQや地産食材を楽しむアウトドアパーク、淡路島食材を使ったラーメンや地場の水産会社と組んだ回転寿司店を出店、秋にかけて地域のコミュニティの場となるような酒場カフェ、月夜を楽しむバーの出店も予定しており、食を中心としたエリア開発を進めています。2021年中には第一フェーズが完成しますが、今後も開発を進めていく予定です」

現在、進行中の淡路島「Frogs FARM」プロジェクトの中核をなすレストラン・ガーブ コスタ オレンジ。絶好のオーシャンビューを臨みながら島内食材をつかったイタリアンが楽しめます

福地恵理さん(以下:福地さん)

「淡路島は国生み神話があるからか、とても神秘的なパワーを感じます。広大な自然と太陽の恵み、何よりそこで暮らす人たちにいつも元気をいただいています。地元の方に淡路島の歴史を教えていただいたり、息をのむほど美しい夕陽の景色に心奪われたり、満点の星空の下テラスでぼーっとしたり、お金では買えない贅沢な時間を過ごしています。会社としても今後、淡路島が活動のベースになることを見越し、現在、廃校になった小学校を取得して社宅とコワーキングスペース、外部からワーケーションに来られた方が滞在できるような場所を作っています」

淡路島と時を同じくして、福岡県糸島市とのプロジェクトもまた、福地さんの地方への思いを加速させるきっかけとなりました。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「糸島市の食材をプロモーションで使ってくださいという話だったのですが、1日限定の糸島食材だけで作る『糸島レストラン』というイベントを当社の店舗で開催させていただきました。生産者の方にも当日来ていただき、作り手の想いやこだわりを直接お客様に伝えながら実際食べていただきました。シェフがその料理を作っている様子をライブ中継するなど、多面的なアプローチを行ったところ、たくさんの方に興味を持っていただくことができました」

福岡県・糸島市とのプロジェクトは、来場者だけでなく福地さん自身にも地方の食材や人、たくさんの魅力を気づかせてくれるきっかけとなりました

福地恵理さん(以下:福地さん)

「最後は来場者に糸島のお土産をお渡し、たいへん満足していただき、イベント終了後に、『あぁ、私はこういうことをやりたかったんだ!』ということがはっきりわかりました。バルニバービは現在92店舗ありますが、チェーン化せず、それぞれの地域に根差したコンセプトやメニュー作りをしているので、お店のあり方も92通り。食材だけでなく作り手の想いを知り、その土地の魅力が伝わるような体験を届けたい、このイベントに携わったことで地方への思い入れがさらに強くなりました」

東京で生まれ育ったからこそ見える地方の魅力。利便性が追求される社会で見失われるものの中にこそ、情報化社会に疲れた人々の心を潤す要素があると福地さんは語ります。

福地恵理さん(以下:福地さん)

「東京では、電車は5分に1回来る、スーパーに行けば何でも揃っているし、コンビニは24時間開いていて、便利なことにあふれています。東京で暮らしてきた私にはそれが当たり前でしたから、高速バス以外の公共交通機関がない、コンビニも車で30分くらいの場所でカフェにいくのもサービスエリアまで足を延ばすという淡路島の環境に最初は驚きを隠せませんでした。でも、それは不便ということではなく、『ないならないで何とかなる』といったら誤解があるかもしれませんが、別に困らないんですよね」

豊かな自然や現地の人々との交流を大事にしながら開発が進められている淡路島は今、注目度が高い土地へと変貌中

福地恵理さん(以下:福地さん)

「東京という街は便利ですが、日常がルーティーンになりがちです。当社の淡路島の施設では、朝、とんびの鳴き声や波の音で目覚め、毎日色が変わる海と空を眺めながら、地元の新鮮食材で作ったおいしい食事が味わえます。当たり前ですが『良いものは良い』なんです。自分自身がこの地に魅せられたことで、まずは2拠点生活をしながら、いずれは移住したいなとも思っています。ここでの生活を想像するだけでワクワクしますね。今後はバルニバービの広報だけでなく、もっと縦横無尽な立ち位置で、たくさんの土地や人と出会いながら学び、発信し続けていきたいなと思っています」

福地さんが淡路島で必ず訪れるという、お気に入りの場所で撮影された一枚

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GARB weeks

GARB weeks

緑豊かな中之島公園のカフェレストラン。農家直送の新鮮野菜などをつかったイタリアンメニューや薪窯で焼きあげるナポリピッツァにグリル料理をラインナップ。オープンテラスでは1年中BBQを楽しめる。

GARB weeks
住所/大阪府大阪市北区中之島1-1-29 中之島公園内

電話/06-6226-0181

営業時間/ランチ11:30~15:00、・ディナー17:30~22:00、カフェ&バー11:30~22:30 ※土曜・祝日はディナー~21:30、カフェ&バーは~22:00