枠組みのとらわれないデザインの概念。人との縁でマルチなクリエイティブスキルを展開

株式会社ノーティスデザインカンパニー・クリエイティブディレクター | ゴトウシュウ

グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートさせ、現在はプランニングやブランディングなども手掛けるゴトウシュウさん。その仕事術には、デザイナーがデザイン業界だけに収まらずに仕事を広げるためのヒントが秘められています。

ゴトウシュウ

株式会社ノーティスデザインカンパニー・クリエイティブディレクター | ゴトウシュウ

ごとうしゅう/1979年生。専門学校を卒業後、デザイン会社勤務を経て2006年に株式会社コンピュータ・コントロールを設立。デザインだけにとどまらず企業のブランディングやプランニングなど幅広い業務を手掛ける。2011年、スニーカーブランド「blueover」の起ち上げに参加し、関西のファッション、アパレル業界で話題を呼ぶ。2016年、旧知の仲であった鵜瀬竜児氏と共に株式会社ノーティスデザインカンパニーを設立。

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プログラマー志望から一転、未知なるデザインの世界へ

グラフィックをはじめ、WEB、服飾、建築など、さまざまな分野に存在するデザイナーという職業。クライアントからの要望に沿ってアイデアを視覚化するというのが一般的なイメージですが、その技術はクリエイティヴワーク全般の根幹を成すものであり、応用することで多方面への仕事の裾野を広げる可能性を秘めています。株式会社ノーティス・デザインカンパニー、そして当メディアの主要メンバーであるゴトウシュウさんは、デザインの概念を他ジャンルに当て込むことで絶望的な状況をサバイブし、デザイナーの肩書きに収まらない仕事を幅広く展開しています。

 

両親ともにプログラム関係の仕事をしていて、自身も将来、同じ道に進むことを考えていたゴトウさんですが、時代背景の影響もあって、当初の人生設計にはなかった方向転換を決意します。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「子供の頃、当時珍しかったApple II(※)が家にあったりして、電子系に関して、結構、先進的な家庭で育ったんです。兄たちもプログラマーやSEなので、僕もゲームプログラマーを目指して、そっち系の専門学校に進学して。しかし、新しいハードがしばらく出ないと言われ、ゲーム業界が傾斜産業のようになっていた時期だったので、先行きを考えるようになって。悩んだ結果、知識ゼロの分野で新しい世界を開くほうが必死になれると思い、自分からは最も縁遠かったデザインの道に進むことにしたんです」

※…アップル社が1977年に発表した家庭用のパーソナルコンピューター

専門学校時代はデザイン修行に明け暮れたというゴトウさん。コンペなどにも積極的に応募し、腕を磨きました

新たな道を進み始めたゴトウさんは、専門学校の講師であるデザイナーの元で修行し、叩き上げで技術を習得。真逆と思っていた世界の中に自らのルーツであるプログラミングとの共通点や、デザインという仕事の意義を見出します。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「言語を書くのと視覚的に表現するという違いはありますが、自分の手で組み上がって完成させる面白さは、プログラミングと近くて。デザインは、感覚的なことと同時にロジカルにちゃんと考えないと破綻します。タレント性がある人なら感覚で突き進んでも大丈夫だけど、僕には、それがないので、しっかり組み上げて計算されたものを世の中に伝えていこうと考えました。あと、クライアントの中に、扱うモノが世に出た先のことが見えるというすごい人が何人かいて、そんな方々からも大いに影響を受けました」

弁天町にある加藤汽船ビルにオフィスを構えていたコンピューター・コントロール

専門学校を卒業後、5年間のデザイン事務所勤務を経験し、26歳で独立。株式会社コンピューター・コントロールを設立したゴトウさんでしたが、その船出は前途多難でした。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「この会社は、もともと僕が一緒に遊んでいた友人たちとクラブイベントの企画などを行うことを目的に設立されました。ただ、当時は関西のクラブカルチャーもピークを過ぎて落ち着き始めた頃だったので、思うように仕事がなく、結局、僕のデザインの仕事がメインになっていって。とはいえ、最初は企画書の作り方も知らないし、クライアントの社長さんにいろいろ提案しても全部ボツにされたり、ダメージ喰らいながらやっていました(笑)」

リーマンショックをサバイブせよ! 仲間と共にシューズブランド「blueover」発足

独立後、順調にキャリアを積み重ねていたゴトウさんでしたが、2008年に発生したリーマンショックの衝撃は、コンピューター・コントロールにも直撃。抱えていた仕事の7割を失う中、次なる展開としてスニーカーブランドの起ち上げに挑戦します。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「これまでの仕事はクライアントありきだったんですけど、自分が製造側やクライアントになって商品を作るという経験をしておきたかったんです。ちょうどその頃、アートイベントで知り合ったプロダクトデザイナーの渡利ヒトシさんから、『自分で靴を作りたい』というお話を聞き、お互い、現状に対して共通の危機感を持っていたことから、じゃあ一緒にやりましょうということになって。ここに接客担当、WEB担当のメンバーが加わり、4人で『blueover』というスニーカーブランドを立ち上げました」

こうして2011年に発足した「blueover」で、ゴトウさんはコンセプトをはじめとしたブランディングを担当。大手の資本に頼らず、自分たちの手で販路を模索する中、商品であるスニーカーが話題になり、ブランドは徐々に成長を見せ始めます。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「blueoverの靴って、ロゴをどこにも入れていないんです。それに革一枚で作っているから、見た目がすごくスッキリしている。日本の靴製造を支えてきた職人さんたちの協力を得て、純国産のスニーカー作りにこだわったことで、ユーザーのみなさんから好評をいただきました。そこから発展して、今度は鞄をやりたいねということになり、『WONDER BAGGAGE』というブランドも起ち上げることに。そのタイミングで大手量販店でも取り扱ってもらえるようになり、ようやく軌道に乗ってきました」

海外の有名メーカーも一目を置く日本の靴製造技術が結集した「blueover」のスニーカー。サンダルやビジネスシューズのラインも

たしかな品質とスタイリッシュなデザイン性で、人気ブランドとしての地位を確立した「blueover」。社会全体がリーマンショックの影響から立ち直りつつある中、本業が多忙になってきたゴトウさんは、ここでチームメンバーから離れることに。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「渡利さんが『blueover』と『WONDER BAGGAGE』を統合して新しく会社を作ることになり、僕はそのタイミングで抜けさせてもらうことにしました。生き残りをかけて始まったプロジェクトがみなさんに受け入れられ、仕事として成立するのを見届けることができたので、やっと一区切りできたかなと。『blueover』でブランディングの基礎を学んだことで、その後もメーカーやアパレルとの仕事で経験を活かすことができています」

今回、取材場所となった「blueover」「WONDER BAGGAGE」などのブランド旗艦店「struct by blueover」。こだわりのセレクトが光るアパレル商品もラインナップ

競合他社の取締役と合流、強固な組織づくりを目指して再出発

「blueover」での実績を携えて新たな分野での仕事を開拓していたゴトウさんは、あるメーカーとの取引の中で、競合他社の取締役だった鵜瀬竜児さんと出会い、会社の未来にを左右する大きな決断をすることに。2016年、株式会社コンピューター・コントロールは、鵜瀬さんの会社の傘下に加わり、屋号を「株式会社ノーティスデザインカンパニー」と改名。鵜瀬さんが代表を務め、新たな組織づくりが図られました。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「デザイン事務所って、トップに立つ人が年齢を重ねるに連れて傾いていく傾向があるんです。それで、下の若い人が辞めて同じクライアントの仕事を取って独立するという。そうならないためのやり方をいろいろ模索していたのですが、鵜瀬さんは70人ぐらいの規模の会社で取締役をしているので、彼の組織づくりや、続いていく会社を作るためのノウハウを知りたいと思って。僕も会計管理など苦手な分野について学ばせてもらっています」

ノーティス・デザインカンパニーを率いる鵜瀬さんとゴトウさん。WEBを中心にユニークなアイデアを形にし、幅広い業務を展開中

自身とは真逆な鵜瀬さんの仕事術は衝撃の連続。これまでゴトウさんの中になかった“数字をデザインする”という概念を知ることに。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「鵜瀬さんは新しいことをやりたいとなった時に、この予算なら先々までの計算が立つというロジックをしっかり形成しているんです。それにアイデアも常に湯水の如くあふれていて、最初は、その勢いに追いついたり、考えていることを理解するまで少し時間がかかりました。最近では、ようやく僕の方から予算面やアイデアの提案することができるようになってきました」

ノーティス・デザインカンパニーの心臓部とも言えるオフィス作業スペース

現在、13名のスタッフが在籍しているノーティスデザインカンパニー。ゴトウさんがスタッフに求めているのは、技術よりも人間性、そして、大阪でデザインという仕事をするにあたっての共通認識であると語ります。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「人に嫌なことをしない、気遣いができるというのが大前提で、採用にあたっても、そういった部分を見るようにしています。あと、この会社で働く上で重要なのは、まだ未開拓な地が多い大阪で、ゼロの状態からデザイン業務を耕す楽しさを共有すること。なので、ものすごい向上心がある人に対しては、東京でデザイン業界のど真ん中に行くことを勧めています」

クリエイティブディレクターとして制作業務全般を統括しているゴトウさん。デザイナーから始まったキャリアは、さまざまな分野での経験を得ることで、今やクリエイティブ全般に精通するタスクへと発展しています。

ゴトウシュウさん(以下:ゴトウさん)

「デザインってある程度突き詰めるとビジュアルだけでなく、数字や予算、新しいオペレーションを考えるのもデザイン行為だなと気づくと思うんです。そうなると、どんな業界にも対応できる。あと、ブランディングやプランニングの仕事に違和感なく入っていくことができたのは、数珠つなぎのように人とのご縁に恵まれていたから。『blueover』も、最初に借りた事務所でアパレルの方と作業場をシェアし、仕事のお手伝いをしたことでノウハウを知ったから始めることができました。今、ノーティスデザインカンパニーをこうやって展開できているのも、鵜瀬さんという僕にはない才能を持った人との出会いがあったから。今後もスタッフや、周りの方とのご縁を大事にしながら新しいことにどんどん挑戦できたらと思います」

ゴトウさんのトレードマークであるキャスケットと白シャツは、デザイン事務所で勤務していた頃、先輩から「覚えてもらえるキャラクターを作っては?」というアドバイスにより生まれたものなのだとか

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struct by blueover

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日本製スニーカーブランド「blueover」、日本製バッグブランド「WONDER BAGGAGE」のフラッグシップ&セレクトストア。両ブランドとのコーディネートに最適なアパレルセレクトも豊富に揃える。

住所/大阪府大阪市西区京町堀2丁目3−4 サンヤマトビル 1階

電話番号/06-6447-6030

営業時間/12:00〜20:00

定休日/火、水