ブームからカルチャーへ。“ととのう”を合言葉に、新時代のサウナをブランディング

プロサウナー・実業家 | 松尾大

過去にも幾度となくブームとなってきたサウナですが、近年、これまでとは違ったタイプの盛り上がりを見せていることを御存知でしょうか。「サ道」「ととのう」といったキーワードとともにサウナに足を運ぶ若者たちが増えているというこの現象。仕掛け人の一人である松尾大さんにブームの裏側、そして、サウナ好きなら誰しもが憧れるという関西のおすすめ店舗についてもお話を伺いました。

松尾大

プロサウナー・実業家 | 松尾大

まつおだい/1976年生まれ。札幌を拠点に複数の会社を経営しながら、同地を訪れた経営者や著名人などにサウナの魅力を伝える“ととのえ親方”として、その名を知られるようになる。2017年には“サウナ師匠”こと秋山大輔氏とサウナ専門ブランド「TTNE PRO SAUNNER」を設立し、アパレルなどを含むサウナのカジュアル化を実践。2019年には医師の監修のもと適切なサウナの入り方を提唱する「日本サウナ学会」を起ち上げた

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ととのえ親方激推し! サウナの聖地・関西のおすすめ3選

サウナと聞くと、「おじさんの嗜み」と連想されがちですが、現在、そんな価値観を覆すサウナブームが日本に沸き起こっています。アパレルも絡めたカジュアルな展開が特徴的なこのブームにより、現在、サウナ愛好者の層は急速に若年化。今やサウナはポップカルチャーの1つと言えるほどの変貌ぶりを見せています。そのブームを縁の下から支えているのが、北海道を拠点にサウナの魅力を発信している松尾大さん。“ととのえ親方”の二つ名を持つ松尾さんは、今、日本のスパ業界に新たなサウナマーケットを開拓しています。

松尾大さん(以下:松尾さん)

日本全国のサウナを体験している松尾さん。1日に2軒をハシゴすることもよくあるのだとか

これまで日本国内はもとより、世界各国のサウナを見てきた松尾さんですが、中でも関西は、サウナ愛好家=サウナーにとって聖地と呼べる施設があるなど、その充実ぶりは白眉ものです。まずは、松尾さんが関西に来ると必ず足を運ぶというおすすめのサウナを教えてもらいました。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「僕は1ヶ月のうち、10日ほど仕事で日本各地に行き、現地のサウナを体験するのですが、関西は特に大好きなお店がいくつかあります。兵庫の『神戸サウナ&スパ』は日本中のサウナ施設の人たちが憧れるお店で、創業60年越えと歴史もすごい。昔から一貫してフィンランドサウナにこだわっています。スパもたいへん充実しているので、1日じゅうでも楽しめますよ」

同業者が羨望の眼差しを送る「神戸サウナ&スパ」。日本でいち早くフィンランド式サウナに着目し、サウナ文化を育んできました(画像提供:KOBE SAUNA&SPA)

「大阪だと『八尾グランドホテル』がおすすめ。ここはサウナもいいけど、温冷交代浴の聖地としても有名なんです。深い水風呂が本当に気持ちよくて、大阪じゅうのサウナーが日々、集まっています(笑)」

大阪のサウナーたちが集う「八尾グランドホテル」。設備が充実しており、水風呂の深さが特徴的

「京都だと『白山湯 高辻店』。六条店もあるけど、サウナが目当てなら、ぜひ高辻店へ。ここはかけ流しの地下水の質がすごく良いのと、外気浴を楽しめるのが最高ですね。サウナもタイルの上に赤い絨毯が敷いてあって風情があるんです」

良質の地下水をかけ流しで使用している「白山湯 高辻店」。サウナルームに赤いカーペットが映えます

札幌でのアテンドの日々から“ととのえ親方”誕生

松尾さんは、北海道札幌市出身。幼い頃から商いに興味を持ち、高校を卒業後、すぐに経営者としての活動を開始します。福祉施設や飲食店、フィットネスクラブなどの事業を展開する傍ら、その顔の広さで、札幌を訪れる著名人のアテンドを依頼されることが多くなりました。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「僕がある程度時間の融通がきいたのと、人と話すのが好きなので、20代の頃から経営者や芸能人、スポーツ選手など、さまざまな方に札幌の街を案内してきました。ランチを食べてディナーまでどうしようってなった時に、ホテルで休んでもらってもいいんですけど、『せっかくだからお風呂行きません?』と誘って、乗ってこられたら方とは、そのままサウナも一緒に入って。そうこうしているうちに、いつの間にか『松尾のアテンド=サウナ』みたいになっちゃったんです(笑)」

さまざまな著名人たちに札幌の街を案内していた松尾さん。「札幌に行けば大ちゃんがなんとかしてくれるから!」と、その評判が広がり、アテンドの依頼が後を絶たなかった

日本で本格的なサウナの知識を持つ人がごく僅かだった2000年代初頭。松尾さんは、すでにグローバルな視点で、その魅力を追求するサウナ道へと足を踏み入れます

松尾大さん(以下:松尾さん)

「旅が好きで、海外旅行に行くとフィットネスクラブの視察をして、宿泊は必ずスパ付きの施設を選んでいたんです。そうやって世界のスパをめぐる中、2009年にはネイティブアメリカンの人たちが入っていた歴史的なサウナを体験。これが本当に素晴らしくて、何かしら情報発信できないかなと思い、いろいろなところでサウナの話をするようになっていったんです」

サウナーによるサウナーのためのブランド「TTNE」爆誕!

世界のスパ文化に知見を広める中、松尾さんは2015年、後にビジネスパートナーとなる“サウナ師匠”こと秋山大輔さんと運命的な出会いを果たします。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「秋山さんとは知人を介して北海道のジンギスカン屋で一緒に御飯を食べたのが初対面。彼も当時、東京のクリエイターたちにサウナの魅力を教えていて、僕も出会ってすぐに意気投合しました。1年後には本場フィンランドをはじめ5カ国のサウナを一緒に視察。これがきっかけで2017年に『TTNE PRO SAUNNER』というサウナに特化したブランドを起ち上げることになったんです」

1枚のTシャツから始まった「TTNE」は、今やさまざまなウェアやグッズ、サウナストーブなどの販売を行うブランドに。今後の展開にも目が離せません

松尾さんと秋山さんが共に起ち上げたブランド「TTNE」。最初に行ったのは、サウナーのためのウェアづくりでした。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「日本でガラパゴス的に広まった『サウナ=おじさんのもの』という文化をとにかく変えたかったんです。そのためには、まずファッションからだろうと。サーファーやスケーターに独自のウェアがあるんだからサウナーにだってあってもいいだろうということで、当時、流行していたSupremeのTシャツのパロディーで『Saunner』というロゴが入ったものを作ったら、ファッション誌が面白がって取り上げてくれて。それをスタート地点にしてサウナのプロデュースやストーブなど設備の販売も行うようになりました」

サウナを仕事にするという念願を叶えた松尾さんでしたが、好きであるがゆえに苦労することも。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「僕としては良いサウナを作りたいから、最初の頃は、プロデュースを依頼されて予算が足りないと言われたら、『その費用はこっちで出すから!』とか言って、ついつい採算度外視になってしまったことも(笑)。創業から数年は、知見を広めるために僕と秋山君でいろいろな国のサウナを視察したけど、もう先行投資だけで数千万円は使いましたね。2人とも他の仕事もやっているから成り立っているけど、僕に関しては、どんどん仕事の比率がサウナ寄りになってきています(笑)」

サウナ関連のイベントにも携わるTTNE。ガールズナイトサウナやサウナパーティーなど、若者のカルチャーつながることで、サウナをよりカジュアルに。写真は洞爺湖サウナサミット前夜祭で行われたトークライブ

ととのえば身も心も健康に。親方からヤングサウナーへのメッセージ

サウナでリフレッシュする効果を表わす「ととのう」は、今やサウナーたちの合言葉となっていますが、松尾さんの二つ名にもある、この「ととのう」の定義とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「たとえば体調が100%の状態だったとしたら、人によっては、さらに上を行って200%を求めたりするじゃないですか。でも、僕らがサウナで『ととのう』というのは、そんな超人化ではなく、ギアをニュートラルに戻したプラマイゼロの状態なんです。サウナや水風呂に入ってリセットされることで体がととのった状態になると思います」

ととのった状態の松尾さん。この笑顔と肉体美はサウナの賜物です

2019年には松尾さんと友人の医師により日本サウナ学会が設立され、サウナの効果を実証する取り組みが積極的に行われています。また、松尾さんは自信の営む福祉の現場からもサウナによる健康促進を推進し、可能性の裾野を広げています。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「僕は福祉施設の仕事で障害や精神的な疾患を持った人を雇用しているんですけど、彼らに『運動でもしなよ』と言っても、なかなか難しいのが現実。でも、サウナだったらじっとしているだけでいいし、気持ちいいから行ってきな!って送り出しています。で、スッキリしたらお腹も空くだろうから、がっつりステーキでも食べなさいって。辛い時の状態と真逆のことをやっていると少しずつでも気持ちが立ち直りますから。他の趣味と違って特別な道具も必要もないし、お金もかからないから、『もし周りに落ち込んでいる人がいたら、とりあえずサウナに誘ってみよう』と昔から言っているんです」

サウナーの年齢層が若くなり、松尾さんも「親方ですか!?」と声をかけられることが多くなったそう

ブームからカルチャーへの過渡期にある日本のサウナ文化。最後に、若い層にも増えつつあるサウナビギナーに向けて、松尾さんが提唱するサウナの楽しみ方・入門編を教えてもらいました。

松尾大さん(以下:松尾さん)

「まず、絶対に守って欲しいのは無理をしないこと。サウナはあくまで快適に過ごすのが目的で、がまん比べをする場所ではないから。それで、もし抵抗がなければサウナで汗を流した後に、ぜひ水風呂に入っていただきたい。実はサウナのメインディッシュは、水風呂の後のととのう時間なんです。お風呂やサウナで体を温めると汗腺が開き、水風呂に入るとぐっと締まる。これで体が魔法瓶のような保温状態になり湯冷めしにくくなります。ただ、あまり何度も湯船とサウナを行き来したり、急に水風呂に浸かると体に大きな負担がかかります。外気浴を挟んだり足元から水をかけて徐々に体を慣らしたりしながら、ゆっくりと、ととのう時間を楽しんでください」

ととのえ親方推薦の”関西のサウナ3選”

①神戸サウナ&スパ

三宮駅から徒歩5分という好立地で、スパ施設やカプセルホテルを利用できる。浴室はヨーロピアンテイストのハンガリアンスパや本格的な冷水浴が楽しめる水風呂などを豊富に用意。サウナはロウリュサービスを行っているメインサウナや、本場のテイストが体感できるフィンランドサウナ、天然塩で新陳代謝を促す塩サウナを完備している。

住所/兵庫県神戸市中央区下山手通2-2-10

電話/078-322-1126

営業時間/24時間営業

定休日/無休

 

②八尾グランドホテル

2000年の伝統を受け継ぐかけ流しの天然温泉やサウナを12のスタイルで。サウナは昔ながらの加熱式と水蒸気を使用した低温のスチームサウナを備え、大阪でも随一の水深を誇る水風呂と併せて温冷交代浴を存分に味わうことができる。関西では最大級のキャパを誇る大衆演劇の劇場も併設しており、人気劇団の公演が常時、上演されている。

住所/大阪府八尾市八尾木北5-101

電話/072-994-3591 

営業/日帰り温泉10:00 〜翌8:00

定休日/無休

 

③白山湯 高辻店

ジャグジーや薬湯、外気浴も楽しめる露天風呂など設備が充実しており、入浴料450円にサウナ料金が含まれているのも嬉しい。ストーンによるフィンランド式サウナが、ほどよい湿度と熱気で新陳代謝を促す。天然の地下水をかけ流しにしている水風呂は、肌触りもよく温度も絶妙。

 

住所/京都府京都市下京区舟屋町665

電話/075-351-3648 

営業/15:00〜24:00(日曜は7:00〜)

定休日/土曜

 

 

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