20年間で1万食! ファッション誌の敏腕編集者がグルメ伝道師・定食王になるまで

定食王 | 岡澤創人

「JJ」「Gainer」などのファッション誌で編集者として活躍した後、マーケティングやコンサルティングの分野に転身し、現在はシンガポールに居を構えている岡澤創人さん。多忙な日々の一方、“定食王”の二つ名で、グルメに特化したインスタグラマー、ライターとしても活動し、日本を代表する食文化の一つである定食の魅力を伝えています。

岡澤創人

定食王 | 岡澤創人

おかざわはじめ/1979年生まれ。大学卒業後、光文社に入社し、「JJ」「Gainer」などのファッション誌で編集者として腕をふるい、並行してWEBサイトやSNSなどの運用にも携わる。その後、日本マイクロソフトやコンデナストなどでのエディトリアル職を経てマーケティング、コンサルティングをメインとした業務に転身。“定食王”の名でInstagramやグルメメディアにて定食に特化した情報発信を行っている。

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母の探究心、食に貪欲な家庭環境が定食王のルーツ

コンパクトかつ多様な味わいを楽しめるフォーマットとして、日本の外食産業の中で広く愛されている“定食”。さまざまな惣菜が織りなす小宇宙は、日本に暮らす者なら一度は味わったことがあるはず。編集者としてキャリアをスタートさせ、幅広い分野で活躍する岡澤創人さんも定食の虜になり、Instagramやグルメメディアでその魅力を発信しています。

 

編集、マーケティング、コンサルティング、そしてグルメライターなど、多岐にわたる活動を展開している岡澤さん。食への興味を抱いたきっかけは幼少期にまでさかのぼります。

岡澤創人さん(以下:岡澤さん)

「うちの母親料理に対してもすごくこだわりが強くて、家でも同じものは2度作らないというほど。『マツコの知らない世界』に出演させてもらったときにも岡澤家のレシピを紹介させてもらったんですけど、とにかく新しい味にチャレンジすることに貪欲で、僕もその影響を大いに受けました」

学生時代から街の情報を集めるのが趣味だったという岡澤さん。ファッション誌の編集者だった頃は海外留学の経験を活かし、LAセレブブームなどに呼応した情報発信を積極的に行ってきました

高校時代を三重県四日市市で過ごした岡澤さんは、大学進学を機に上京。氷河期と言われた就職活動で奮闘する中、自身のルーツである雑誌を通して定食王への片鱗を見せ始めます。

岡澤創人さん(以下:岡澤さん)

「大学時代は神奈川県の藤沢市に住んでいて、企業の面接でちょくちょく東京まで行っていたんです。せっかく都内に行くなら大好きな『relax』や『BRUTUS』に載っている店を少しでも制覇したいと思い、東京23区の地図本にそれらの雑誌の記事を貼り付けていたんですけど、その中にグルメの情報もあって。就活仲間がどこそこの会社受けると聞いたら、周辺にあるおすすめの店を教えていました。あと、学科の授業で、生徒が自分のホームページを持つという課題があり、そこでも好きな飲食店の紹介をやっていました」

『relax』や『BRUTUS』を愛読し、編集者を夢見ていた学生時代

編集者の視点が光る。グルメインスタグラマー・定食王の船出

大学を卒業し、念願だった編集者の道を歩み始めた岡澤さんは、時代の移り変わりとともにWEBメディアやSNSへのアプローチを積極的に行うようになり、2016年に定食王の名でInstagramを開設。グルメメディアなどでの執筆も行うようになりました。

岡澤創人さん(以下:岡澤さん)

「Instagramは最初、自分の日記のような感じでいろいろな写真を投稿していたんですけど、ご飯関連のものに“いいね”が多くつくようになり、それならいっそ食に特化したアカウントを作ってしまおうと思って。どうせやるならカレーだけ、ハンバーガーだけと専門色があった方が良いなとは思ったのですが、僕、同じものを繰り返し食べるのが苦手で…。そう考えると定食は、もともと好きだったし自分にとってはうってつけの題材だったんです」

 

 

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岡澤さんが運営する定食王のInstagramアカウント。多彩な定食が並び、見ているだけで食欲をそそられます

数多あるグルメ系のアカウントがしのぎを削り合う中、多彩な食材が並ぶ定食王のInstagramは、たちまち人気に。多くの人々が日常的に口にしながら、意外と気づいていない定食の魅力とは?

岡澤創人さん(以下:岡澤さん)

「ランチに限らず定食って、役職、年齢、性別問わず、幅広い人が食べに来るので、あらゆる人に対して平等なんですよね。メニューも和洋中が自由に組み合わさるなど幅広くて、これは近年よく言われるダイバーシティという言葉とも共通性があると思います。昭和から続く老舗の食堂なんかは日本の高度経済成長期を支えてきたし、常に暮らしに寄り添い、働く人達を支えているところに大きな魅力を感じます。関西だと比較的新し目のお店ですが、谷町六丁目の『大衆食堂スタンドそのだ』がお気に入り。好きな食堂の要素が満載で、東京にいた時も仲間内で『“そのだ”行った?』と話題になっていました」

大阪・谷町六丁目で屈指の人気を誇る「大衆食堂スタンド そのだ」。心斎橋や天王寺にも支店がオープンするなど、今、其の勢いが関西の飲食業界で注目を集めています

大学時代から数えて20年で実に1万食以上を食べてきたという岡澤さんが好きな定食は、あくまでシンプル、基本に忠実であるものと語ります。

岡澤創人さん(以下:岡澤さん)

「まずは白いご飯が絶対的な存在なので、それに合うおかずが集まったユニバースというのが僕の中での定食の定義。鮭の切り身や生姜焼き、肉じゃがなど、定番のものを、奇をてらわず、ていねいに作ってくれると嬉しいですね。あと、僕は豚汁など食べごたえのある味噌汁が大好物なんですけど、要望に応じて味噌汁の種類を変えてくれるお店もポイントが高いです。中には味噌の種類を5つぐらい用意してくれているところもあり、僕の地元である名古屋の赤味噌などが置いてあると思わず注文してしまいます」

親日国・シンガポールのグルメ事情

現在、シンガポール在住のため定食王の更新は休止中ですが、現地の人たちからのリクエストでシンガポールのレストランを紹介するアカウントを起ち上げるなど、グルメへの探求は継続中。岡澤さんが見たシンガポールの食文化にもグルメ必見の興味深い情報が満載です。

岡澤創人さん(以下:岡澤さん)

「実は、こっちにも日本のチェーン店が結構進出しているので、定食を食べることはできるんです。シンガポールの人たちには揚げ物が人気で、とんかつやエビフライの定食は非常によく売れています。あと、ホーカーという屋台の飲食店が昔からの文化として根付いていて、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。3〜4ドルも出せばおいしいごはんが食べることができ、ミシュランの星を獲得した店もあるほど。ただ、日本の老舗食堂と同じく後継者不足が目下の課題ですね」

シンガポール伝統の食文化である屋台飯・ホーカー。現在は国が運営するフードコートに多数の店が集まり、さまざまなメニューを提供しています

日本での定食王の活動再開が待たれる状況ですが、今後の岡澤さんの描いているビジョンは?

岡澤創人さん(以下:岡澤さん)

「もともと海外で働きたくてシンガポールに来たんですけど、他にもいろいろな国に行ってみたくて。特に中東やアフリカが気になっているけど、現状、新型コロナウイルスの影響もあるので、すぐには難しいですね。学生時代、東南アジアで留学プログラムに参加した時に、『テクノロジーが進化している社会で5〜10年後の展望を考えるのは意味がない。キャリアの8割が偶然の産物なので、流れに対応できる力を培うことが大事』と学んだこともあり、まずは好奇心や冒険心を持ち続けて目の前の新しいことにどんどんチャレンジしていけたらと思っています。定食王の更新は、本当なら年に数回、日本に戻ってやる予定だったのですが、この状況なので、もう少しお待ちいただけたらと思います」

チャレンジ精神やスピード感あふれるシンガポールの活気に刺激を受けているという岡澤さん。日本での定食屋めぐり再開は、もうしばらくお待ちを

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大衆食堂スタンド そのだ

大衆食堂スタンド そのだ

昭和の風情を残す食堂に、現代ならではの多様な味覚を加えてアップデート。食べごたえのあるメニューを数多く揃えており、ちょい呑みから本格的な食事まで幅広く楽しめる。定食メニューも豊富に用意。

住所 大阪府大阪市中央区谷町6-3-7

電話 非公開

営業時間 11:00~23:00

定休日 無休

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