国際的企業で培った百戦錬磨の広報スキルで日本のものづくりを活性化

MOON-X 執行役員 CCO (Chief Communications Officer)、ミラクジャパン代表 | 下村祐貴子

日本のものづくりの活性化を推進するMOON-X株式会社の広報、PR戦略のコンサルティングを主とした株式会社ミラクジャパンの代表という2つの顔を持つ下村祐貴子さん。多様な人種が入り交じる国際的な企業で活躍してきたその経験は、働き方に対する価値観が著しく更新されている現在において、新しい時代の労働のあり方を導き出しています。

下村祐貴子

MOON-X 執行役員 CCO (Chief Communications Officer)、ミラクジャパン代表 | 下村祐貴子

しもむらゆきこ/1980年生まれ。2002年、P&G株式会社に入社。2010年からはシンガポールに転勤し、アジア地域広報のPR戦略をリード。2016年には、Facebook Japanに転職し、執行役員ならびに広報統括として、地方創生プロジェクトなど、さまざまな案件に携わる。2020年3月からはMOON-X株式会社で執行役員 CCO (Chief Communications Officer)、女性用スキンケアブランド「BITOKA」のブランドディレクションを担当。2020年7月には広報コンサルティングを主とする株式会社ミラクジャパンを創業した。

この記事をシェアする

理系からの意外な転身で始まった広報キャリア

「働き方改革」という言葉が世に出て数年。副業を解禁する企業も出てくる中で、複数の仕事をかけ持つパラレルキャリアという働き方に注目が集まっています。P&G、Facebookという国際的な企業で広報を務めてきた下村祐貴子さんも現在、MOON-X株式会社、株式会社ミラクジャパンという2つの会社の運営に携わっており、「自分の信念に沿って働く場所を選ぶ」という信念を徹底することで、フレキシブルなキャリアを積み上げてきました。

どちらかといえば文系のイメージがある広報の仕事ですが、下村さんは学生時代、神戸大学の発達科学部で数理情報科学論を学んでいたという理系志向。広報の道に入ったきっかけには自身のルーツが大きく影響しています。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「学生時代はシステム系の専攻でプログラマーを目指していました。卒業後に就職したP&GもITや物流関連の部署に配属となったのですが、会社の主軸であるマーケティングやブランディングで貢献したいと思うようになり、広報に移りました。父が広告代理店、祖父が新聞社とマスコミ系の仕事をしていたので、情報を発信する仕事に対する憧れが子どもの頃からあったんです」

学生時代はシステム系の専攻で学び、P&G入社後もIT関連の部署に。広報への異動願いは会社にも驚かれたそう

女性の働き方が先進的! シンガポールで開けた国際的な視野

かくして広報へと異動となった下村さんでしたが、実はその念願を叶えるまでには紆余曲折があったようです。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「社内で広報を希望する人は結構多いけど、ほとんどがマーケティング出身の人で、理系は私ぐらい。それもあって5回面接してやっと移ることができました。前歴からすれば畑違いに思われるかもしれませんが、商品の売上を左右する業務に携わっている以上、数字を意識するのは必然です。その意味でも理系で培った論理的な考え方は、広報の仕事にも大いに役立ったと思います」

国際的な知見を広めたいと、かねてから海外勤務を希望していた下村さんは、入社6年目に辞令を受け、シンガポールに転勤。日本では考えられない現地の職場環境に大きな刺激を受けました。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「シンガポールって国土は小さいけど、さまざまな人種が暮らしていて、『どこから来たの?』なんて聞くのが野暮なぐらい。私も上司がイギリス人とアメリカ人、部下がシンガポール人、インド人、ブラジル人という感じで、日本人同士のように『分かって当然』ではなく、バックグラウンドが違うからこそオープンになって、しっかり話し合うことの必要性をすごく感じました。あと、保育園やヘルパーさんのサービスが充実しているので、女性の働き方がすごく進んでいましたね」

激しく失敗して成功への近道に! 価値観が一変したFacebook創業者の教え

2016年、6年にわたるシンガポール勤務から帰国した下村さんは、当時の日本の社会情勢を目の当たりにしたことで、自身の仕事について新たなビジョンを描きはじめます。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「その頃の日本ではDV(ドメスティックバイオレンス)が大きな問題になっていたのと、東日本大震災からの復興がまだまだ途中段階だったこともあり、そういう社会的な問題に対してFacebookなら対応できるのではないかと思い、転職を考えるようになりました。Facebookはシンガポールにいた時もよく使っていて、すごいプラットフォームだと思っていたのですが、日本での利用者がまだ少なかったので、それを広げたいという思いもありました」

これまでの価値観を覆されたというFacebookでの日々。日本法人では執行役員と広報統括を務めた

新天地であるFacebookへと移った下村さんは、シンガポールを越えるグローバルな職場、そして、これまで知り得なかった仕事へのスタンスに触れることで価値観が一変します。

 

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「アメリカ本社の同僚がミシェル・オバマさんのスピーチ原稿を書いていた人など、ほぼホワイトハウスの出身者なんです。そんな人たちがデニムにニットという服装でカジュアルに働き、しかも、みんな社会に貢献したいと思っていることに感銘を受けました。Facebookは社会に役立つシステムなら、テスト版でもどんどんローンチするんですけど、創業者であるマーク・ザッカーバーグの『うまくいかなくても構わない、激しく失敗することで成功に近づく。何もしないことは悪だ』という考え方は衝撃的でしたね」

Facebook在籍中に携わったプロジェクトの中でも、特に印象深いと語るのが地方創生プロジェクト。まだまだ東京一極集中の傾向が強い中、地方の魅力を広く発信することは下村さんにとって、これまで培った広報のノウハウをフル活用する案件となりました。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「神戸の靴製造のような、地方のビジネスをグローバルなプラットフォームを使って情報発信するというプロジェクトをリードしていました。神戸から始まり、下関、東北に行って、2020年2月には吉村洋文大阪府知事と連携協定を結ぶことができました。最終的に大阪府のような大きな自治体と繋がることができたのは感慨深かったです」

学ぶべきときは今! 変わりゆく環境の中で2つの新天地へ

Facebookで着実にキャリアを築いていた下村さんですが、仕事に対する考え方や家庭の事情など、さまざまな要因が折り重なったことで次なるステージに進むことに。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「Facebookにずっと勤めようかなとも思っていたのですが、子どもたちが大きくなってきて、新しいことを学ぶなら今がベストなタイミングだと思い、Facebook日本法人で代表を務めていた長谷川晋さんが起ち上げたMOON-X株式会社に入社しました。日本のモノづくりに焦点を当て生産パートナーやお客様との「共創」をテーマにクラフトビール「CRAFT X」やスキンケア「SKIN X」「BITOKA」も展開しています。ITやFacebookの働き方をものづくりで実践し、ビールなどは、お客様のフィードバックに合わせて味を改良し、早いスパンでのブラッシュアップを行っています」

MOON-X株式会社では執行役員 CCO (Chief Communications Officer)として、広報の統括と女性用スキンケアのブランドディレクターを兼任していた

そして、2020年7月には下村さんが代表を務める株式会社ミラクジャパンを創業。さまざまな分野で培った広報のノウハウをパッケージとして提供することで、企業の業績アップをサポートしています。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「今の日本企業では、広報はマーケティングや営業企画の一部という扱いが多いんです。社会に貢献するための、お客様に伝えるビジョンを作ったり提供価値を明文化したりするのは広報の大事な仕事ですけど、そういう事ができている会社は少ないので、サポートしたいと思っています」

株式会社ミラクジャパンでは、下村さんがこれまでのキャリアで出会った精鋭が揃う

驚くべきは、そのスピード感。百戦錬磨の下村さんの広報テクニックをもとに戦略PRを作成し、60日間で形にすることでクライアント企業の広報クオリティーを格段に上昇させます。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「会社として中長期でやりたいことがある場合、PR戦略はだいたい4つぐらいに分類できるんです。それを型にしてアイデアを入れていくと60日間で誰でもPRが始められるようになっています。新製品が出たりして、ご希望がある場合は、その後も伴走するけど、基本は一つのプロジェクトを60日で完成させます。ただ、良質なサービス提供を考えると1ヶ月に受注できるのは3〜4社が限界ですね」

複数の企業で職務を実践する下村さんのようなパラレルキャリアは、眩しく移る反面、ハードルの高さを感じるのも正直なところ。しかし、社会的に仕事に対するスタンスが変わりつつある今、何かしらの行動を起こすことが次へのステージに繋がると下村さんは語ります。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「私がFacebookで得た、『とりあえずやってみる』という考え方はすごく大事だと思います。それで失敗したり花が咲かなくても前の場所に戻ることはできるし、前進したことで何かは得ているので。興味や関心は都度変わるというのを自分でも許容して、その時にベストな道に進むのがいいんじゃないかな。私もP&G時代にお世話になった皮膚科のお医者様と今、MOON-Xで一緒に化粧品を作っているし、積み上げてきたことが後々に生きてくることもよくありますよ」

健全な筋肉が売れる広報を形成する。華麗なるパラレルキャリアの行く先は?

多忙を極める下村さんですが、プライベートな時間では筋トレに励んでいるという意外な一面も。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「健康管理のために始めたけど、ジムの方から、少し上のトレーニングを勧められてやってみたら合っていたようで、そこから結構な勢いで体も変わってきました。成果を知りたくて『サマー・スタイル・アワード2020』という大会に出たら、もう超楽しくて(笑)。仕事って自分が頑張っても外的な要素で上手くいかなくなることがあるけど、筋トレは自分が節制したらちゃんと返ってくる。逆に甘くなると一発でだめになるけど、それも含めてやりがいがあります。パーソナルトレーナーから『限界だと思ってからの(回数)3 回ぐらいが大事』と言われてやり抜いたことで自分のメンタルにも良い影響があったと思います

鍛え上げた筋肉美を披露した「サマー・スタイル・アワード2020」での1枚

この先の展望については、「まったく思いつかない」という下村さん。目の前の「今」に全力で取り組むことで、気がつけば今日までたどり着いていたのだとか。

下村祐貴子さん(以下:下村さん)

「この1〜2年は今やっていることで埋まるけど、5年後の自分なんてわからないし、どこで何がしたいというのは、まったくないんです。ただ、会社のことで言えばMOON-Xは日本のものづくりに特化しているので、今後も良い製品やブランドをどんどん作りたいと思っています。ミラクジャパンでは事業会社のサポートを通して広報という仕事の重要性をもっと知ってもらえたらいいなと思うし、それが伝播して広報の人材がもっと育てば嬉しいですね」

この記事をシェアする