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有限会社ティ・アンド・ジー代表 | 後藤雄一
2021.05.10
神戸を中心に飲食店事業を展開している有限会社ティ・アンド・ジーは、関西でいち早く蕎麦に着目し、三宮の「四季愛菜ダイニング」をはじめとする店舗で、その魅力を発信してきました。世界的にグルテンフリーが推奨される中、健康食材として注目を集める蕎麦と代表の後藤さんとの出会いは、さまざまな偶然が重なった上での必然と言うべきものでした。
有限会社ティ・アンド・ジー代表 | 後藤雄一
ごとうゆういち/1970年生まれ。大学卒業後に商社での営業経験を経て義父の経営する飲食事業会社へ転職。阪神淡路大震災被災による事業縮小を経て有限会社ティ・アンド・ジーを設立。1999年、十割蕎麦を提供するカフェ「四季愛菜ダイニング」をオープンし、現在では神戸と東京で5つの店舗を展開。
1995年、関西を襲った阪神淡路大震災をきっかけに生活や仕事が一転し、それまでとは違う道に進んだ方は多いのではないでしょうか。神戸を中心に飲食事業を展開する有限会社ティ・アンド・ジーの代表、後藤雄一さんもその一人。
後藤さんは大学卒業後に水産会社の営業職を1年経験した後、義父の経営する飲食事業会社へと転職。同社は神戸を中心に弁当店や多数の飲食店を展開していましたが、1995年の阪神淡路大震災での被災が影響し、事業縮小を余儀なくされました。
後藤雄一さん(以下:後藤さん)
「会社もこれから大きくなるし、うちで働かないかと誘ってもらい、三宮のお弁当屋さんのスタッフになりました。入社から1週間後、さあ今日から配達業務を始めるぞ、と思っていたら震災が起きてしまって。経営していた店のほとんどは倒壊で閉店を余儀なくされ、2年ぐらいは事業閉鎖に向けて閉店業務と整理という苦難の日々でした。それからいろいろあって義父が事業を引退する時にお金を集めてくれて、とりあえず家族だけでもご飯が食べられるようにと、三宮さんプラザの地下に『四季愛菜ダイニング』という蕎麦が食べられるカフェを開いたんです」
「四季愛菜ダイニング」がオープンした1999年当時、関西で麺といえば圧倒的にうどんが主流。蕎麦の認知度はまだまだ低く、後藤さんも当初は、義父が推し進める蕎麦店の構想に懐疑的でした。そんな中で始まった新たな船出は、紆余曲折を経て後藤さんならではのスタイルに行き着きます。
後藤雄一さん(以下:後藤さん)
「フードコンサルタントの方の『これからは、ヘルシーな十割蕎麦が来る!』というアドバイスを受け、新店は義父の一声で蕎麦でやっていくことに。ただ、当時の僕は28〜29歳ぐらいだったし、見た目もこの通りチャラいので(笑)、おじさん相手の蕎麦屋を続けるのは無理だなと思って。そこで、女性の方に蕎麦を食べてもらえるお店を作ろうと、カフェ+蕎麦屋という形態を思いついたんです。最初は鳴かず飛ばずでしたが、弁当屋時代のノウハウをいかし、『鶏南蛮タルタル御膳』みたいなメニューで定食屋っぽい雰囲気を打ち出し、そこにしれっと十割蕎麦を付けるようにしたら、ようやく軌道に乗り出しました」
順調に売上を伸ばしつつも蕎麦への思い入れはなかったという後藤さんでしたが、店で使っている製麺機の開発者のエピソードを知ったことで、蕎麦へのリスペクト、そして自身が飲食業をやり通すことへの指針を見つけます。
後藤雄一さん(以下:後藤さん)
「岩手県の盛岡で小さなお惣菜屋をされていた方なのですが、お店の人気が出てスーパーから大量生産の発注を受け、ストックのために防腐剤を使うことに疑問を感じられて。それで、売れるほどみんなが健康になれる食材を研究された結果、十割蕎麦に行き着いたんです。蕎麦は栽培に農薬を必要とせず、高血圧など生活習慣病の予防効果があるルチンや疲労回復を助けるビタミンB群や食物繊維などを豊富に含んでいて栄養バランスも抜群。世界的にグルテンフリーが推奨されている今、非常にニーズに沿った食べ物なんです。そういった蕎麦の魅力を知ったことで、僕の中で、『この素晴らしい食べ物をもっとたくさんの人に食べてもらいたい!』という目標が出来ました」
「食がもたらす健康」という大きな命題にたどり着いた後藤さんは、本格的に蕎麦の研究に取り組むようになり、事業の裾野も広がりを見せるようになりました。
後藤雄一さん(以下:後藤さん)
「江戸時代から続く蕎麦、そこから繋がる和食やダシの文化などを知ったことで『日本を知る』ことが自分にとっての大きなテーマだと思いました。最初、その思いが先走りすぎてニューヨーク進出!と視察に行ったけど、見事に打ちのめされて(笑)。それからしばらくして東京でのオリンピック開催が決まり、世界が日本に注目している今、自分が東京に行って蕎麦のブームを作ろうと2016年、恵比寿にSoba Tempura Bar『EBISU FRY BAR』を出店。そこから江戸ソバリエという蕎麦業界のコミュニティに入り、東京の蕎麦屋さんと徐々に仲良くなっていきました」
本場・東京の蕎麦業界に進出を果たした後藤さんは、直球ではなく、変化球で蕎麦文化に切り込むことで、自らの立ち位置を確立します。
後藤雄一さん(以下:後藤さん)
「東京で僕は、まず自分と近い考えを持った店主さんたちと『邪道蕎麦の会』というグループを作り、『蕎麦ボウルプロジェクト』というのを立ち上げました。実は世界的には蕎麦アレルギーってごくわずかで、グルテンアレルギーのほうが遥かに多いんです。それで海外の人が食べやすいサラダ蕎麦の普及を進めました。そうこうしているうちに『更科』総本家の堀井さんなど蕎麦御三家と言われる名店ともつながりを持つことができ、全日本・食学会という組織への入会推薦をいただいて。昔の自分では考えられないような状況に、ただただ驚いています」
後藤さんは2021年3月に蕎麦と日本屈指の酒蔵地帯である灘の酒とのマリアージュを提供するお店「スタンド JAPA SOBA HANAKO」を神戸三宮でオープン。ここでもまた、新たな蕎麦ファンの開拓を目指します。
後藤雄一さん(以下:後藤さん)
「東京の蕎麦屋では、江戸時代からお店に置くお酒は灘五郷のものしか認めないという文化があるんです。『薮蕎麦』は菊正宗、『砂場』は剣菱など指定の銘柄もあって、そんな文化を関西の方に知ってほしくて、このお店を作りました。ただ、新店を出すのはここが最後になるでしょうね。僕も50歳になって、店舗開発を続けるのは、もう体力的にもキツくて(笑)。今後は、これまで培った経験やノウハウを国内外の方々に販売する方向にシフトしようと考えています」
革新的な取り組みを続けてきた後藤さんの経験やノウハウは、世界進出も目前。蕎麦から広がる未来へのビジョンにも大きな期待が寄せられています。
後藤雄一さん(以下:後藤さん)
「現在、中国や韓国の飲食企業の方が僕らの運営方法に興味を持ってくださっているので、コロナ禍が落ち着いたら具体的に話を進めたいですね。蕎麦の栽培も海外で貧困にあえいでいる農家さんにすすめたいけど、まだ小麦ほどの需要がないので課題は多いです。僕の原動力は、昔から一貫して、『どうすれば自分やお客様がワクワクできるか』という気持ち。僕らが蕎麦でたくさんの方に健康を広めることにワクワクしていますし、今後は世界中にその気持ちを伝えたい。その中で日本古来の伝統も届けられたら。こんな風に考えるようになったのも50歳になったからなのかな(笑)」
スタンド JAPA SOBA HANAKO
「ISOGAMI FRY BAR 神戸 三宮 蕎麦 天ぷら」の姉妹店スタンドが”阪急三宮 駅内 EKIZO神戸三宮”にオープン。蕎麦と蕎麦前、灘五郷。江戸の蕎麦文化と神戸港を繋ぐ壮大な歴史を紐解き、体験する新感覚SOBA STAND。
正式名称 スタンド JAPA SOBA HANAKO
住所 神戸市中央区加納町4-2-1 EKIZO神戸三宮 西館 1F
電話番号 078-322-0875
営業時間 11:00~23:00
定休日 無休