デザイン性を前面に打ち出して造園の未来を切り拓く

庭師 | 佐野友厚

京都の造園会社「庭友」の代表を務める庭師・佐野友厚さん。これまで職人が一手に引き受けていた造園作業の中からデザイン業務を細分化させることで、造園業界全体の向上、そして未来への橋渡しに取り組んでいます。

佐野友厚

庭師 | 佐野友厚

さのともあつ/1979年生まれ。庭師の長男として生まれ、幼少時から造園の仕事に触れる。短大・大学時代に専門的に造園を学び、卒業後は国内から海外まで幅広い現場での造園を手掛ける。2001年、自身が代表を務める造園会社「庭友」を設立。これまでに100軒もの造園を手掛け、綿密なデザインで設計された庭が高い評価を得ている。
庭師の仕事ぶりは、JapanesegardenTVでも観ることができる。

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よりよい庭を作るために知っておきたい造園デザイナーという仕事

それまでの慣習を受け入れつつも新しい考えを持ち込むことで、自分の手がける仕事をより良いものへとしていく。京都の造園会社「庭友」の代表を務める庭師・佐野友厚さんは「理論を身につけた職人」を実践されています。

 

小学生の頃から家業の手伝いとして造園の現場に通っていた佐野さんは、将来の道も自ずと庭師を志しますが、職人としての経験を積み上げる中で、それまで重要視されていなかった造園における設計、デザインの重要性に開眼。現在、業界でもいまだ少数派である造園デザイナー業の浸透を目指し奮闘されています。

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「たとえば家を建てるとなったとき、庭師という職業は、いまだに建築家や工務店さんが扱うコマの一つという考え方なんです。しかし、造園は非常に専門性が高く、実は完成させるまでよりも、その後のメンテナンスに携わる時間のほうが遥かに長い。そういうことも考えて設計やデザインをしっかりやらなければいけないし、それを実践するために造園デザイナーという職業があるということを世に広めたいと思って活動しています」

「お小遣いと休憩のおやつが楽しみで(笑)」と幼少時の現場体験を振り返る

造園の世界では、現在においても依頼を受けた職人がプランニングから現場作業までをすべて担うのが常とされていますが、佐野さんはその状況に危惧を募らせています。

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「職人がすべてを引き受けた場合、依頼が来て、『じゃ、明日から作りますね』という感じですぐ作業に入るから、どうしてもプランニングが甘くなってしまうんです。業界全体の7割ぐらいは、いまだにそんな感じで。みんな経験があるから、それなりの形にはできるけど、根本にある造園設計をもっと突き詰めて表現方法を広げていかないと業界全体が廃れてしまう。僕は日頃から、どうやってクライアントの意見を反映しつつ、家屋や周りの景色に調和する庭を作るかを考えながら図面を書いています」

もみじの小路平面図。周りの調和を壊さないためにも図面は必須

佐野さんによる最終ドローイングのイメージ図

枝一本切るだけでもデザイン行為。庭という生き物と向かい合う造園デザイン

いわゆるガテン系の職業というイメージもある庭師ですが、佐野さんは短大や大学で専門的に学んだことで、造園への取り組みに深みを持たせることができたと語ります。

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「僕は短大、大学で、師匠である尼博正先生から造園を学んだのですが、理論を持ちつつ職人の経験もある方で。作る庭は、自分がこれまで見てきたものとまったく違った、教科書には絶対に載らないようなもので、その斬新さに衝撃を受けたんです。師匠には『枝一本を切るだけでも景色が変わる、それはすなわちデザイン行為である』という、造園デザインの奥深さを徹底的に教わりました」

車やバイクのカスタムが趣味。作業用の車両もミリタリー仕様にチューンナップ

その後、尼氏が通信制の大学院を起ち上げ、佐野さんは仕事をしながら、かねてから興味のあった台杉(だいすぎ)という造園樹木についての研究を行うことに。

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「台杉の研究を通じて論文を書くことで、ものごとを理論付ける考え方ができるようになりました。庭師仲間にもその充実感を伝えてはいるのですが、みんな日々の仕事で手がいっぱいなので、なかなか研究などに時間を割けなくて。でも、作業に長けた職人が理論を身に着けたら、もう無敵の存在になれると思うし、僕はそこを目指したい。それで造園業界や庭師の地位向上に繋がったら本当に嬉しいですね」

かつては遊び場だった。実は身近な日本庭園

日本における庭園の歴史は平安時代以前にまでさかのぼり、さまざまな様式が確立されてきたことから、どこか敷居の高い存在と捉えられているのが正直なところ。しかし、かつての庭園は、もっとフランクな場所だったのだとか。

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「基本的に庭の楽しみ方というのは自由で、ルールというのは、その中で各々が感じ取るものなんです。昔なんて貴族や財界の人たちは回遊式庭園で酒盛りしたり、雅楽を演奏させたり、今で言うところのクラブのような場所として使っていたんですから(笑)。見る側の意識がどんどん敷居を高くしてしまったのかもしれませんね」

明治・大正時代の政治家、山縣有朋の元別荘である名勝「無鄰菴」。東山を背景に躍動的な自然美を取り込んだ庭園は近代日本庭園の傑作とのほまれも高い

これまでプロとして数々の日本庭園を見てきた佐野さんが、初心者にも、ぜひ足を運んで欲しいというおすすめのスポットを教えてくれました。

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「京都の南禅寺にある無鄰菴(むりんあん)という庭園です。南禅寺界隈は明治時代に財界人たちが畑を開拓して作った別荘地で、ここも山県有朋(※)の別荘だったんです。無鄰菴はただ見るだけじゃなくて、庭コンシェルジュが付いて解説をしてくれるのがいいんですよね。かつて有朋がくつろいでいた場所でお茶をいただくこともできるし、外交会議を行った立派な洋館も見ることができるので、ぜひ遊びに行っていただきたいです」

※…明治・大正時代に活躍した政治家。幕末には戊辰戦争に従軍し、明治維新後は伊藤博文内閣の内相に就任。後に総理大臣も努めた。

横の繋がりが生まれる庭造りを

佐野さんが庭造りの際、重きを置いているポイントは人々が集い、くつろぐ場所であるということ。その思いは今回のインタビュー場所で、造園を手掛けた京都のコワーキング施設「ガーデンラボ」にも反映されています。

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「庭というのは建築でいうなら部屋の一つ、リビングの外バージョンを作るというような考え方があります。木や花など自然のモチーフを造形美で構築し、みんながいろいろなことをするための場所を作るという。このガーデンラボも全面開放した中庭を取り込んでイベントを開催したり、地元に根づいた場所になっています。僕自身も個人のお客様の庭はもちろん、こういった民衆の庭とでも言うべき場所を作るのは好きですね」

京都・京阪五条にあるコワーキング施設「ガーデンラボ」。伝統的な京町家をコワーキングスペースとして改装し、宿泊施設も兼ね備える

佐野さんが思い描く造園業界の未来、そして後進たちに望むこととは?

佐野友厚さん(以下:佐野さん)

「まずは“庭師”という言葉を広く知ってもらうこと。これは、ガーデンラボの仲間とポッドキャストを配信したり、オンラインサロンを起ち上げ、海外の人向けに“niwashing”という言葉も作ったりして、かなり現実的になってきています。若い人たちに向けても庭師の仕事がいかにクリエイティブかつ人間らしいものであるかを発信し、ただただきついだけの仕事というイメージを覆したいですね。そのためにも伝統を受け継ぎながら、作業着などアパレルにこだわってみたり、新しい要素も入れて造園の世界をアップデートしたいと思います」

「四季の移ろいや太陽の角度など、自然の演出する美しさが庭の醍醐味」と語る佐野さん

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Garden Lab 株式会社

Garden Lab 株式会社

伝統的な京町家をリノベーションしたコワーキングスペース。京都の中心部にありながら、街の喧騒から離れた落ち着いた空間で、熟練の庭師による美しい中庭には樹齢100年のもみじの木があり、季節ごとの表情を見せる。集中して創造的になれる環境と、会員同士のネットワークづくりができる快適な空間だ。

正式名称 Garden Lab 株式会社

住所 京都市下京区石不動之町682-6

電話番号 080-9750-1514

営業時間 コワーキング 9:00~18:00 バー 18:00~23:00

定休日 無休