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フルカイテン株式会 代表取締役CEO | 瀬川直寛
2022.02.28
小売業の経営者にとって在庫問題は常に向き合うべき課題。売れ筋や不良在庫の見極めが経営に大きく作用しますが、常に商品と向き合っているからといって、その選り分けが正確に行えるものではありません。大阪に拠点を置くフルカイテン株式会社の在庫分析システム「FULL KAITEN」では、在庫の運用効率を上げ、健全経営のバックアップを行っています。
フルカイテン株式会 代表取締役CEO | 瀬川直寛
せがわなおひろ/1976年生まれ。大阪桐蔭高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部機械工学科で天然ガスの熱力学性質に関するAIによる予測に関する研究を行う。2000年、コンパックコンピュータ(現ヒューレットパッカード)に入社し、その後も国内外のIT系企業を渡り歩きながら輝かしい営業成績を残す。2012年に独立後はEC事業の世界に転身。順調に成長を遂げながらも在庫が原因で3度の倒産危機を経験し、状況打破のために在庫分析システム「FULL KAITEN」を開発する。ベビー服ECは2018年9月にM&Aで売却し、在庫分析クラウド『FULL KAITEN』を提供中。
FULL KAITENでは、企業が抱える在庫を「売れ筋」「不良在庫」の二分化ではなく、その間に潜む隠れた売れ筋商品も見つけ出し、適正価格での販売へとスムーズに誘導。表計算ソフトなどで細かく数値を記入し、膨大なデータとにらみ見合いながら判断を重ねる煩わしさがないところに多くの企業が注目しています。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「小売店では、よく不良在庫のセールが行われますが、そもそも不良在庫とはなんなのか。不良在庫の対極には売れ筋商品がありますが、この2つの間の数字は、0か1という離散値ではなく、0.1、0.2…という感じで、連続値と呼ばれるゆるやかな段階があり、この連続値をちゃんと把握できるのがFULL KAITENの大きな特徴。何を売れば儲かるかが分かるので無理な値引きをしなくても在庫を消化できるし、逆にこの部分を放置すると経営を苦しめるというものも全部分かります。クライアントのみなさまには経営の保険という感覚で導入していただくことが多いですね」
この画期的なシステムを生み出した背景には、かつて小売業で煮え湯を飲んだ瀬川さん自身の経験が生かされています。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「35歳で務めていた会社から独立し、ベビー服販売のECサイトを立ち上げたんです。ところが事業が思うように展開できず、在庫が原因の倒産危機を3回も経験。この厳しい状況を乗り越えるにあたり、自分が高校や大学で勉強してきた数学的なバックグラウンドを生かして取り組もうと思ったんです。1回ごとの倒産危機をデータ分析して、どうやったら問題を回避させながら事業を成長させられるかと研究したところ、従来の在庫分析とは違う計算式にたどり着いて。それを実践し始めたら業績が安定しました」
当初は自社の問題解決のために運用していたFULL KAITENのシステムでしたが、奥様のひと声がきっかけで現在まで続く瀬川さんのメイン事業へと変貌しました。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「妻から、『在庫は小売業の社長ならみんな悩んでいる。本当に人の役に立ちたいのなら、このシステムを他の会社にも使ってもらうべき』とアドバイスを受けたんです。僕はもともとシステム開発の仕事をやっていて、人を喜ばせる仕事がしたいと思って会社を辞めたから、『また同じところに戻るのか…』と思ったのですが、『自分たちの苦しい状況を救ってくれたFULL KAITENは、困っている企業や経営者をきっと笑顔にできる』と言われたことで事業化を決意しました。妻の言葉にはぐうの音も出なかったし、本当に背中を押してもらいましたね」
サービスのリリース後は、さまざまな企業から在庫リスクが劇的に改善されたという報告も。経営者が頭を抱える不良在庫の問題について瀬川さんは、日本経済の変遷に起因するものであると語ります。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「バブルの時代に大量生産しても消費が追いついていた名残りで、今の時代に同じことをやると、売れないから値引きし、それでも利益が出るようにするために製造原価を下げる。そうすると商品クオリティも下がるから、やはり売れないという悪循環に。FULL KAITENでは、今ある在庫で売上・粗利・キャッシュフローを最大化し余分な在庫を持たないよう提案するので製造原価が上がることもあります。しかし、それをコストと考えず、投資と捉えて高品質な商品を作れば利益がちゃんと取れるし、利益を次の投資に回せる。今後は、小ロットでも良い商品を作ろうという人や会社が増えると思うし、その方が商売をする人にとって絶対に楽しい未来になりますよね」
フルカイテンでは今後、さらなる進化で経営者をサポートするため新たな機能の開発が進められています。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「FULL KAITENの需要で最も多いアパレル業界などは半年〜1年先の需要を予測し、商品展開を行うのですが、そんな先の売れ筋を考えるのは至難の業。しかし、当社では、さまざまな企業から集められた膨大な在庫分析データがあるので、これを使えば需要の予想をある程度立てられると思います。それに価格をいくらにすれば売り上げが最大化するか、あるいは販売数量が最大化されるか、利益が最大化されるか、という売価変更の予測もできるかと。これらのシステムは、なるべく早めに形にしたいですね」
奈良県出身の瀬川さんは少年時代、サッカーに夢中でしたが、中学時代に医学への道を志したことから本格的に受験勉強に打ち込むように。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「当時、織田裕二さん主演の『振り返れば奴がいる』というドラマが放送され、その影響で医学の道に進みたいと思いました。しかし、中学3年の6月に行われた模擬テストがさんざんな成績で、これはやばいと思って勉強を始めたら卒業前には上から7番目になりました。高校進学後は『医学部なら浪人が当然』と聞いていたのですが、我が家にはそんな余裕もなかったので、3年分のカリキュラムを自主的に2年で終わらせ、残りの1年は受験勉強に集中するという“セルフ浪人”スタイルで受験に臨みました」
独自の勉強法で大学受験の準備を進めた瀬川さんは、8つの大学を受験。医学部こそ叶わなかったものの、それ以外はすべて合格し、慶應義塾大学の理工学部機械工学科へと進学します。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「医学系についてはやりきった気持ちがあったので悔いはありませんでした。ただ、大学では自分が必死で勉強したことについてもっと高いレベルで理解している同級生がゴロゴロいたことに挫折し、その反動でサッカーばかりやっていました。その時点で将来、研究職はないなと思っていたけど、高校時代から物理は好きだったので、それに関連したことをやろうと思って、天然ガスの研究を専攻しました。ガスを採掘する際の温度や圧力、密度などさまざまな数値を予測するのですが、このときの経験がフルカイテンのシステム開発にも生かされています」
大学を卒業した瀬川さんは、アメリカ発のパソコンメーカーとして世界的にシェアを拡大していたコンパックコンピュータ(現ヒューレットパッカード)に就職。ベンチャー精神に溢れ、多種多様な人種が集まる社の雰囲気に瀬川さんも大きいに刺激を受けました。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「就職試験の面接が終わって会場を出たら人事役員の方から『君、慶応でサッカーやっていたよね。明日、来てくれたら内定出すから』と言われて、わけがわからないまま翌日、言われたとおりにしたら本当に内定書をいただいたんです。最後の質問でJリーグはどこのファン?と聞かれて、当時コンパックは浦和レッズのスポンサーだったのですが、そこは意識せずに名古屋グランパスですと答えたら、『正直だなー。はい、ハンコ押して』って(笑)。後で聞いたところ、当時はスポーツをしていた人や留年した人、挫折を経験した事がある人などを積極的に採用していたそうで、そんな社風だから同期も先輩も本当に面白い人ばかりでしたね」
コンパック退職後、外資系や国内のIT系企業を渡り歩いた瀬川さん。順調にキャリアを積み上げながらも、仕事に対するやりがいについて考えを巡らせていた時に転機が訪れます。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「クライアントの課題に対してシステムを開発し、提供する仕事をしていたけど、人の役に立っている感触がなかったんですよ。億単位の発注をいただいて納品しても、そのシステムで誰が幸せになるのか分からない。それがつまらないなと思っていたのですが、35歳の時、自分のチームの若手エンジニアが誕生日で、彼の誕生日祝いにサプライズで会社に大きなバルーンギフトが届くようにしたんです。で、本人が席に着いて箱を開けたらバーっと風船が舞い上がったんですね」
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「その光景を見て、社内で普段話さないような人もみんな笑顔になったんです。8000円のバルーンギフトがこれだけの人を笑顔にしているのに自分が22歳から35歳までシステム開発に捧げてきた情熱は、どれだけの人を笑顔にしたのか。もう、自分のやるべき仕事はこれではないと思って会社を作ることにしたんです。プランもないまま会社を辞めたけど、たまたま、その時期に妻が妊娠したのでベビー服でお母さんたちを笑顔にできればと思って販売事業を開始。そこから先ほどお話したようにいろいろあって今に至ります(笑)」
フルカイテンのシステムで多くの小売業者を支援してきた瀬川さんですが、その先には、さらに大きな目標を見据えています。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「世界の大量廃棄問題を解決したい。これは自分の人生、そして会社の最大のミッションとして目標に掲げています。製品を作りすぎると、そこでまず資源を無駄にして山のようにCO2を出すじゃないですか。廃棄も同じですよね。ヨーロッパの国々だと、この手の話は道徳やトレンドではなくビジネスとして捉えられています。SDGsなど一定の取り組みに準拠していることを示すグリーンラベルが貼られていない商品は売れないという方向になっていて、大手企業が続々とその方向性に進んでいますが、日本はこういった問題に対してまだまだ意識が低い」
「SDGsにしても『あんなのトレンドでしょ』『儲かるわけがない』なんて言っていると海外には絶対に追いつけないし、ビジネスチャンスも逃してしまいます。FULL KAITENの事業を広げていくことによって在庫の量が適正化されれば作る量も減りますし、廃棄量も減るので、そこに貢献したい。ただ、そのためにFULL KAITENのシステムを使うのは手段の一つであると思っているので、他にもっと良い手段が出てきたらそっちにいくかもしれません。そのへんは自由に考えています」
大きな目標に向かって突き進むフルカイテンでは、さまざまな業界から集まってきた社員と共に、新しい時代の働き方についても積極的に取り組んでいます。
瀬川直寛さん(以下:瀬川さん)
「26人程度の小さな会社ですが、その中でも社長や取締役など、そういう立場の人に対しては一定の距離を感じると思うので、年に数回、希望する社員と合同でキャンプを行うなど、自分が率先して遊び心を出しています。今の時代は物質的な豊かさで幸せを感じなくなった裏返しで、会社というコミュニティでの帰属意識とか仲間に対する気持ちとか、もっと人間の根源的なところで幸せを求めるのが割合的に大きくなっている気がします。その上で社会貢献に向かう気持ちなどをもっと演出したいと思っています」
フルカイテン株式会社
在庫分析クラウドシステム「FULL KAITEN」の開発・運用を行い、企業や小売業者の在庫問題をサポート。経営者向けのセミナーも定期的に開催している。