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株式会社Casie代表取締役 | 藤本翔
2022.02.14
現在、日本で絵画や彫刻、グラフィックなどアートの創作活動だけで生計を立てられている人は、アーティスト人口約80万人のうちの7%と言われており、増加傾向にはあるものの、職業アーティストがいまだに狭き門であることに変わりはありません。京都に拠点を置く株式会社Casieでは、これらの問題を解消し、アーティストを一般的な職業として確立させるための仕組みづくりに邁進しています。
株式会社Casie代表取締役 | 藤本翔
ふじもとしょう/1983年生まれ。画家であった父親が生涯、作品発表や活動に苦労した姿を幼少期から目の当たりにし、アーティストが経済的に困窮せず、円滑に制作を行うための仕組みづくりを決意。総合商社やコンサルティングの世界で経験を積み、2017年に株式会社Casieを創業。アートのサブスクリプション事業を展開し、美術大学との連携も行うなど、アートシーンの活性化、カジュアル化に尽力している。
株式会社Casieでは、規定の審査を通過したアーティストの作品を月額2200円から貸与(購入も可能)するというアートのサブスクリプション事業を展開。これまで作品発表や販売の場に恵まれなかったアーティストが活動を展開できるプラットフォームとして、現在、美術界で大きな注目を集めています。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
同社の代表を務める藤本翔さんがこの事業を始めた経緯には、自身の家庭環境が大きく影響しています。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「親父が画家で2ヶ月に1回ぐらい地元の商店街で展示販売会をしていたのですが、絵で生計を立てることがなかなか叶わなかったんですね。作品の流通やマネタイズが苦手で、才能はあるのに機会に恵まれないことがもったいないと常々思っていました。親父は、僕が小学5年生のときに病により34歳で亡くなるのですが、彼の姿をずっと見てきて、自分は将来アーティストのためになる仕事がしたい、そのために必死に勉強して34歳で第2の人生をスタートさせようと決意しました。紆余曲折を経て34歳を迎えた2017年にCasieを創業し、今に至ります」
Casieのユーザーは大半が一般家庭。それ以外では企業や自治体の施設などにアートを送り出し、マネタイズさせてアーティストたちの収入を生み出しています。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「若いアーティストたちは今、コロナ禍で展覧会もできないし作品発表の場がない。SNSに投稿してフォロワーを増やすぐらいしか活動方法がなく、それで作品が売れることは、ほとんどありません。しかしCasieに作品を預けておけば保管料も無料だし、ユーザーの目に止まってレンタルされれば報酬を得ることができる。作品に同梱する冊子でアーティストの詳細やInstagramのアカウントも紹介するので、フォロワーも自然と増やすことができるんです。日本で画家として食べていくのは、お笑い芸人やミュージシャンより難しいと言われているのですが、そんな現状をCasieから変えていけたらと思います」
アーティストにとっては流通の機会を得られる場、ユーザーにとっては敷居が低く気軽にアートに接することができる場として、Casieは両者のマッチングを推進しています。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「Casieはホームページ上でアートや芸術のフレーバーを出さず、インテリアの文脈で作品を紹介しています。芸術ですと言うと高尚なものとして抵抗を感じる人が多いので、最初は、ちょっとかわいいインテリアぐらいの感じで紹介。自宅に現物が届いたら芸術のフレーバーが爆発という流れを作っています。スマートフォンのサービスでも風水に絡めたアート診断をしていたり、あえてアートに関係ないところから興味を持ってもらえるような取り組みに注力しています」
気軽にアートに接したその先の目標として、藤本さんは将来、アート作品を用いた資産運用も構想しています。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「買った作品をCasieにもう一度預け、これがまた誰かのお家にレンタルされるとユーザーさんは著作権収入を得ることができるようにする。不動産の運用に近い考え方で、こういったアートの投資は今、海外で人気が出てきています。当社ではユーザーさんの詳細な情報をご提供いただき、作品と精度の高いマッチングを行うので、そのノウハウをもとにアート投資のカジュアル版を作りたい。資産価値の状況もCasieのアプリで分かるようにし、ユーザーさんも巻き込んだアートの流通をやりたいですね」
父親の背中を見てきたことでアートに携わることになる藤本さん。少年時代はスポーツ一辺倒の体育会系だったという意外な一面も。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「サッカーとラグビーにはまっていて、高校もラグビーの推薦をもらっていたのですが、身長が伸びなかったので断念。代わりにブレイクダンスを始めました。京都で有名なダンスチームに入っていたんですけど、アート関連の仕事で起業するという目標もあったので、社会人2年目まででダンサー活動は休止。自分の結婚披露宴ではメンバーが踊りに来てくれるなど、交流は今でも続いています」
大学卒業後は34歳での起業に向けて総合商社やコンサルティングの世界で社会人として修業の日々。この時期の経験が現在のCasieの運営の下地となっています。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「商社時代は建設機械を売っていたのですが、見積もりが億単位なので、だいたい社長さんに直接営業するんですね。コンサル時代も中小企業の社長さんがクライアントだったのでたくさんの経営者と出会って話ができ、彼らのしんどいところや相談をたくさん聞けたことが自分の実になっています。創業社長って本当にぶっとんだ人が多くて、世の中にないものを生み出して大きくする姿勢は、まさにアーティストそのものです」
かくして創業したCasieですが、当初は未知のジャンルであったが故に周囲の理解を得るにも時間を要し、前途多難な船出に。しかし、あるアーティストのアドバイスが危機的状況を打破へと導きます。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「かなり年上のアーティストの方に、『この仕事をやろうと思ったきっかけを教えてくれ』と言われたんです。それで初めて親父のことを人に話したのですが、そうしたら、『その言葉を一言一句漏らさずに会社概要に書きなさい』と言われて。僕としては自分の素性をさらすのは嫌だったのですが、アーティストさんに言われたら、もうやるしかない。意を決してその言葉通りにしたら、たくさんの方が反応して作品を預けたいと言ってくださるようになったんです。これがターニングポイントとなって作品収蔵点数も1000点を越え、2019年から本格的にサブスクリプションのサービスを開始することができました」
日本でアートが高尚なものと見られ、専業アーティストの人口が少ないのは、アートシーンの変遷やアーティストの金銭感覚、世間の受け取り方など、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果であると藤本さんは語ります。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「日本では、芸術家は世間と一線を画した存在という考えが古くから根付いており、それが原因で若いアーティストたちも自分の作品に法外な値段をつけることに疑問を持っていないんです。これからキャリアをつくっていくアーティストなら、まずは数万円程度から販売実績を重ねていき、徐々に価格を上げて行くほうが、アーティストと受け手側の接点が生まれやすいのではないかと思います」
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「僕は高校時代、アメリカのサンフランシスコで現地のアートシーンを視察したのですが、ギャラリーは若手アーティストを支援しているし、毎週日曜になると原っぱにテントが立てられアートフェアが開催されます。価格帯もだいたい1〜2万円、高くて6〜7万円ぐらいで、家に絵を飾るからちょっと買いに行こうみたいな感じで気軽に作品を買えるんです。そういうカジュアルなマーケットもあるし、資産価値の高い作品を専門で買う富豪みたいな人もいて棲み分けができています。日本だとギャラリーに高額な作品だけ置いていることが多いので対照的ですね」
現在、登録アーティストの大半が社会人というCasieですが、今後は、さらに幅広い年齢層のアーティストが活躍できる環境づくりを目指します。
藤本翔さん(以下:藤本さん)
「京都では美大・芸大の学生の間でCasieの認知度が上がってきていて、駅で電車を待っていると、いきなり声をかけられて驚くことも(笑)。登録アーティストの最高齢は、もうすぐ100歳で富士山の絵を専門で描いている方がいらっしゃるのですが、子ども対象のコンテストで3歳の子が入選して期間限定で登録した例もあります。当社でも今後、アーティストという存在がもっと世間の中で当たり前の存在になり、普通に収入を得ることができる職業として確立されるように努めていきたいと思います」
Casie
月額2200円(ライトプラン)〜で作品レンタルできるアートのサブスクリプションサービスを展開。最短1ヶ月で作品を交換でき、希望すれば購入にも対応している。アーティストの作品エントリーは登録フォームより随時受付中。
Casie
住所/京都府京都市下京区俵屋町218
電話/075-352-5522
営業時間/10:00〜18:00