遊び心満載のアプリで生態系を学んで情報を蓄積し、保全を推進

株式会社バイオーム代表取締役 | 藤木庄五郎

SDGsの浸透で環境や生態系の保全に対する意識が高まっている現在。株式会社バイオームの代表・藤木庄五郎さんは、京都大学農学部での研究の経験を活かし、社名を冠したゲーム性満載のいきもの図鑑アプリを開発。「自然を守ることが社会の利益につながる」という仕組みをつくるため、日々、邁進しています。

藤木庄五郎

株式会社バイオーム代表取締役 | 藤木庄五郎

ふじきしょうごろう/1988年生まれ。子どもの頃から自然に興味を抱き、生態系の研究者を目指して京都大学農学部に入学。在籍中、ボルネオ島でキャンプ生活を送りながら生物多様性可視化の技術を開発する。2017年に株式会社バイオームを設立し、生きもの図鑑アプリ「バイオーム」を開発。2022年1月現在、約41万ダウンロードというヒットを記録している。

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日常に生物探しの楽しみを加えるアプリ

野外で撮影した生物をアップロードするとAIデータが種目を選別し、図鑑に登録するアプリ「バイオーム」。株式会社バイオームの創業とともに本アプリの開発を手掛けてきた藤木さんは、「ポケモン GO」などにも通じる、「自分で動いてデータを収集」というゲーム性を通し、生態系の保全に興味を持ってもらいたいと語ります。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「ゲームのような楽しさ・操作性でモチベートするのは開発当初から考えていました。ただ、この部分に関しては注意も必要で、突き詰めすぎると生き物をぞんざいに扱ってしまう可能性が出てきます。そうなると本来の目的である保全とかけ離れ、本末転倒になってしまいます。ですので、たとえば、希少種の生息地はすべて非公開にするなどの工夫を取り入れています。今のところ、幸いユーザーさんも意識の高い人が多く、問題的な行動も見受けられません。しかし、ここは使う人のモラルに依存せず、我々がシステムでその一線を守れるようにしておくべきだと思っています」

バイオーム本社とオンラインで取材が行われました

ローンチから現在で、ダウンロード数は約41万人。その人気を支えているユーザー層とは?

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「最初は中学生ぐらいが多いと思ったのですが、実際ユーザー層の中心にあるのは30〜40代ですね。男女比も6:4ぐらいで、女性の方も思った以上に生物に興味を持っていることが分かりました。『このアプリをダウンロードしたことで、今まで普通に歩いていた道を生き物がいる場所と捉えるようになり、価値観や世界が変わった』など、当初は想定していなかった反響もいただけて嬉しかったです」

「バイオーム」アプリでは登録された数多くの生物について、詳細な情報を手軽に得ることができます

撮影した生物を即座に特定するという最大の特徴は、技術開発の中で最も注力した部分。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「生物を特定する認証機能にはすごくこだわっています。写真で生物の名前を特定するのは、ディープラーニングや機械学習を使いAIで特定するというよくある技術です。でも、似ている生物が多いし、この方法だけでは限界があって。そこで写真の見た目の情報だけでなく、生き物を撮影した場所や時期などを学習させるというアプローチも取り入れています。たとえば蝶って世界に2万種ぐらいいるけど、『京都の鴨川で4月に撮影できる蝶』と振り分けると5種類ぐらいに絞ることができます。最初はオープンなデータや過去の研究成果を学習させていましたが、最近ではユーザーさんの投稿により、かなり詳細な情報が集まってきています」

アプリ内の人気企画「いきものクエスト」など、楽しめるコンテンツを生み出すべく日々、ミーティングが繰り返されています

手軽に持ち運べる生物図鑑として独自のポジションを確立したバイオームは、今後のさらなる展開を目指してブラッシュアップを計画しています。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

ある小学校では生徒のタブレットにバイオーム入れて授業で使ってもらっています。教育機関との連携は今後も続けていきたいですね。ただ、世代ごとでニーズが違ってくるので、ゆくゆくはアプリ自体を大人向けと子ども向けで分けたいと思っています。今後の展望としては、アウトドア活動の中で、釣りや登山と同じ感覚で、バイオームでの生物探しを一つのジャンルとして定着させたいです。ちょっと時間ができたら外に出て生物観察をするという感じ。我々はマイクロアウトドアと呼んでいるのですが、それに特化した方向でアプリを進化させていく予定です」

「バイオーム」アプリでは、野外での散歩中、珍しい昆虫などを見かけたら即、撮影、アップロードで名前や種目などの情報を知ることができます

さまざまな自然環境に身を置き研究を重ねた大学時代

大阪・平野区で生まれ育った藤木さんは幼い頃から釣りや虫取りに熱中し、生態系や地球環境について興味を持ち始めるように。そして、小学5年生の時にその後の運命を決定づける一冊の本と出会います。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「鳥取大学の遠山柾雄先生が書かれた『世界の砂漠を緑に』という本を読んだんです。遠山先生は砂漠に木を植え続けて緑化を推進するという活動をされていたのですが、研究者として地球の未来を守るとう行動がすごくカッコいいなと思い、自分も同じ道を志すようになりました。この分野については京都大学の農学部が強いと聞いていたので、そこに目標を設定して勉強していました」

生物学や自然環境の研究者を目指し京都大学農学部に入学。修士や博士なども含め5年間、研究に打ち込みました

難関である京都大学への入学を果たした藤木さんは、学部、修士、博士と約9年間、大学に在籍。研究室が起ち上げたボルネオ島の研究プロジェクトに参加することで熱帯雨林の奥深さや環境破壊の現状を目の当たりにします。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「ボルネオ島は生物の多様性におけるホットスポットで、広大な熱帯雨林が残っている一方、大規模な伐採も進んでいて、まさに環境破壊の最前線。樹高70メートルのビルみたいな木がそこら中に生えていますが、その近くでは、地平線まで更地という光景も広がっている。伐採した木は建築資材や紙の原料になり、更地はやがて農地などになってオイルパームやゴムの木を栽培しますが、環境が変わってしまうので、ほとんどの生き物が住めなくなります

木々が一面に生い茂るボルネオ。中にはビルのような高さの木もあるということで、日本では見られない生態系に満ち溢れています

日本に戻った藤木さんは、ボルネオで受けた衝撃をもとに環境保全に対する自身の考えを新たにします。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「ボルネオで見たような凄まじい環境破壊は、もう個人でどうこうできるレベルではありません。これは、社会全体で環境に対する仕組みを変えないと解決しない。要は環境を壊したら儲かるという今の仕組みに対し、環境を守ることで儲かるという対立関係を作らないといけないと思って。そのためには研究ではなくビジネスの世界に食い込まなければということで起業を決意しました」

ボルネオでは現在も豊富な原生林の伐採が進んでおり、環境破壊の現状をありありと伝えます

かくして2017年、大学時代の仲間を中心にバイオームを設立した藤木さんは、メイン事業となるアプリ開発のほか、生態系や環境保全に関するさまざまな取り組みでビジネスを展開していきます。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「当社はアプリのユーザーさんに集めてもらったものを含め、生物のデータをアーカイブとして持っているので、それを使って企業のSDGs活動や行政の取り組みをサポートしています。最近では、ビルの屋上を緑化したり街中に木を植えるなど、都市緑化について、どれぐらい生物の多様性に寄与しているのか、効果を知りたいとよく聞かれます」

「環境問題の解決という」目的のため、京都大学でともに学んだメンバーが藤木さんのもとに集まりました

豊かな未来を作るための自然保護

生態系・環境の保全という自身への課題に取り組み続けている藤木さん。今後の自然界の動きについて危機感を感じています。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「このまま環境破壊が進めば生物の数は近い将来、現在の50%まで減ると予測されています。そのためには生息地の維持が問題になってくるのですが、これには人間の土地利用が絡んでくるので着地点を見つけるのが非常に難しい。農地にするのか宅地にするのか、森林のままでいくのか。一概にこうだと言い切ると、どこかに角が立ってしまいます。ただ、絶対に守るべき場所というのはあって、そういう所は保護区にするべきだし、他の利用には使わないというアプローチが必要です」

プライベートで時間があれば率先して自然の中へ。川や山の中に身を置くことで環境変化に対するアンテナを張っています

「それに加えて自然を里山のように使いながら共存する。日本は里地里山の共存文化を古くから受け継いでいるので、そういう考えや取り組みは、もっと進んでほしいと思います。あとは生物の乱獲を減らすことですね。絶滅危惧種は、今のペースで捕るとどういう変化が起こるか未来予測が全然できていないので、どこまで捕獲量を減らすべきか示す仕組みづくりに取り組みたいと思っています。生態系の維持のためにも、こういった方法が効果的なのではないかと考えています

山積みの課題と向き合う中、心身をリフレッシュさせるのは、やはり自然の中に身を置いている時間。

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

子どもの頃から続けているだけあって釣りはお手のもの

藤木庄五郎さん(以下:藤木さん)

「最近、なんとか時間を作って釣りに行くようにしています。海釣りがメインで場所的には舞鶴や伊根など京都の北の方が多いです。渓流釣りもたまにやっていますよ。原生林からきれいな水が流れておいしいお米ができたりしているので、この先も壊されることなく、なるべく現状を保ってほしいですね

生態系の保全をビジネスに結びつけ、種の絶滅や環境破壊を防ぐ。藤木さんの大いなる挑戦が続きます

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株式会社バイオーム

株式会社バイオーム

生きもの図鑑アプリ「バイオーム」を開発・リリースを展開。社内で蓄積した生物のデータを用いて企業や自治体のプロジェクトにも携わっている。

株式会社バイオーム

住所/京都市下京区中堂寺南町134番地ASTEMビル8階

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