人手不足を解消するロボット「PLEN Cube」で暮らしや仕事を効率的に

PLEN Robotics株式会社 代表取締役 | 赤澤夏郎

テクノロジーの進化とともにコンピューターは人間の仕事や暮らしをより快適に、効率良いものへとアップデートさせています。簡単な設定で入退館チェックや体温検知などを行えるIoT機器として話題を呼んでいる「PLEN Cube」。その開発・製造を行っているPLEN Robotics株式会社の赤澤夏郎さんは、手のひらサイズの高機能ガジェットに希望を込め、今日も人々の暮らしをより快適にするテクノロジーという課題に向き合っています。

赤澤夏郎

PLEN Robotics株式会社 代表取締役 | 赤澤夏郎

あかざわなつお/1971年生まれ。町工場を営む家庭に生まれ、大学卒業後は長野県でスキーの指導員、選手として活躍。30歳で大阪に戻り、父親の工場内でロボット開発のベンチャーを設立する。その後、ロボット関連のコンサルティング業などを経て、2017年にPLEN Robotics株式会社を起業。主力商品であるPLEN Cubeの商品展開を広げている。

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さりげなく高機能。まだまだ進化中のPLEN Cube

アニメや映画、小説など、SF作品に登場するロボットたちの活躍は、これまで遠い未来の話、もしくはあくまで架空の存在というイメージで捉えられてきました。21世紀の始まりから20数年が経った現在。ロボット開発の技術は、それらの作品と形は異なるものの、人々の暮らしを円滑にするべく急激な進化を遂げています。

 

大阪に本社を置くPLEN Robotics株式会社では、現在、介護の現場や中小企業などを中心に主力商品であるPLEN Cubeの販売を展開。入退館のチェックや検温を行い、愛嬌のある動きまで見せる本製品は、作業の無人化で人手不足を解消し、新しい時代のロボットを体現しています。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

大阪・中津にあるPLEN Robotics本社でインタビューが行われました

PLEN Roboticsの代表を務める赤澤夏郎さんが本製品を生み出したきっかけには、長年の経験から到達した「コミュニケーションロボットの理想形」というテーマがありました。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「近年、キャラクタライズされた人型のロボットが、よくお店の受付などに設置されています。しかし、規模の小さい施設や会社だと場所を取るし、そんなに大きなロボットは置けません。そこで、もっとシンプルな形で、どこに置いても違和感がないものを作れないかと考え、PLEN Cubeの開発に着手しました。動いて人にアプローチすることに関してはすごくこだわりを持っており、必要なしぐさやインタラクションなどを実装して意思を伝えるようにしましょうと開発当初から話していました」

コンパクトなサイズにさまざまな機能を盛り込んだPLEN Cube。顔認証のセンサー機能だけでなく愛嬌ある動きも見せてくれます

手のひらサイズで驚きのコミュニケーション能力を見せるPLEN Cubeですが、現在でもまだ開発途上の段階なのだとか。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「最初に掲げた目標の実現度合いでいうと、まだ30%ぐらい。究極的な機能としては、機械ができるような定型的な作業を全部、人からPLEN Cubeに置き換えたいと思っています。たとえばお店に置いている場合、注文の受付や、それに対して応えるのもロボットでやれるし、なんなら、こういうものが好きであろうというお勧めも提案できるようにしたい。決済も顔認証を使えばお客さんがいちいち財布を出すなどの煩わしさがなくなり、手ぶらでスピーディーに完結させられます。そこまでのコミュニケーションを具現化するのが当面の目標ですね」

スマートなデザインや使い勝手の良さは、顧客のニーズを反映したもの。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「シェアオフィスや介護施設などが主要ターゲットですが、そういう現場ではIoT機器がインターネットにうまく繋げられないという声が、よく聞かれます。クラウドありきで動くものだとネット環境がなければサービスの提供ができません。PLEN Cubeは小型のマイコンボードにソフトウェアを実装しているので、多少の設定だけでネットワークなしでも使え、個人の認証もできます。なおかつ置き場所に困らないのということで引き合いをいただき、そこに一定のニーズがあると思っています」

PLEN Cubeの導入先として多く見られるのが自治体の施設。こちらの公民館でも窓口に設置され、入館者の検温などを行っています

会社設立の2017年から開発を続けていたPLEN Cubeは、量産システムの確立を一つの区切りとしていましたが、さまざまな側面で新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けました。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「中国の深圳(しんせん)で量産の計画を立てていたのですが、コロナのタイミングとばっちり重なったことで遅延してしまい、一時期は資金繰りにかなり苦労しました。ただ、プラス面で考えると、コロナ前だと顔認証をすること自体、特別な技術だったし、みなさんの抵抗もあり、気持ち悪いという声も聞かれました。しかし、コロナ以降、世の中の構造がガラッと変わって顔認証が当たり前になったというのが我々にとって追い風になったと思います」

こちらもPLEN Cube導入先の企業。コンパクトで場所を取らないため、おしゃれな内観にも違和感なく溶け込みます

今後の展開については、草の根的な活動で販売促進を目指しています。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「小規模な小売店などでの導入を進めていきたいと思います。現在、大手資本による完全無人のコンビニも増えつつありますが、あれはシステムの実装に数億円かかるので、すべての事業所に適応できるものではありません。その点、PLEN Cubeは約15万円という低価格で購入できるので、初めてのAI導入という意味では敷居が低く感じていただけるかと思います」

商店や介護施設だけでなく、個人の住宅に向けての導入アイデアも。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「一般家庭では見守りや介護文脈での使いみちがメインになってくると思います。当社のラインナップに『みまもり花子PLEN Cube』という製品があり、これは、ドアセンサーと連動して、出ていっては困る人が家を出ると顔認証で保護者や介護者に通知が届くシステムになっています。たとえば認知症の方の徘徊などは、介護をされている方にとって悩みが深い部分なので、僕らの技術で解決できる要素があるのではと思っています」

国内外の展示会でもPLEN Cubeの性能は話題に

町工場からスキーの世界、そしてロボットの道へ

赤澤さんの生家は3代続く老舗の町工場。航空機部品をメインに製造を行なっていました。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「30〜40人規模の工場で、僕が子どもの頃は経営状態があまり良くなく、苦しい部分ばかり見えていました。それもあって大人になったらすぐ家業を継いで…という感覚にはなれず、大学を卒業する時、父に当時ハマっていたスキーの仕事がしたいと伝えたんです。反対されるかと思ったら逆に快く送り出してくれて、それから約10年間、長野県でスキーのインストラクターやプロの選手として活動していました」

大学時代にのめり込んだスキーの世界。インストラクターだけでなく選手としてもさまざまな大会で活躍しました

スキー業界に身を置いていた赤澤さんは、30代を迎えたことで将来を見つめ直し、大阪へと戻ることに。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「雪国で育ったわけでもなく、子どもの頃からアスリートとして鍛錬していたわけでもなかったので限界を感じ、スキーは引退。好きなことを存分にさせてもらったという思いもあったので、家業を手伝う決心をしました。その頃になると工場の状況も改善され、新規事業として大阪大学の石黒浩先生やロボット開発の最先端だったヴイストン株式会社の方々と人型ロボットの開発ラボを起ち上げていたんです。正直、工場を継ぐ自信はなかったけど、その開発は面白いと思ったので、父からラボをやらないかと言われて二つ返事で引き受けました」

工場の工作機械を自作していたという父の血を受け継ぐ赤澤さんは、初めて触れるロボットの世界にも違和感なく順応していきました。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「まず基礎知識を理解しないといけなかったので、ラボにあったロボットを組み立て、どうやって動いているのかを自分で調べました。人型ロボットって複雑で歩かせるのも大変なイメージがありますが、実は構造はシンプル。僕らの場合は運動学やセンサー工学を使わず、アニメーションでセル画を組み合わせてるような形でプログラムし、少しずつ関節を動かすという方法を採用しました」

赤澤さんが手掛けた人型ロボットは、シンプルな構造で人間の動きを再現するという難題に挑みました

赤澤さんがロボット事業に取り組み始めた2000年代初期は、日本でもテレビや各種メディアでロボットブームが巻き起こっており、その波に乗って開発を進めていきました。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「ラジコンのモーターやプロポを作っている会社がそういう製品ですごく成長したという現象が一時的にあって、僕らも2006年に当時で世界最小サイズの人型ロボットを開発。自分でスケボーに乗って走る動画をYouTubeにアップしたところかなり反響がありました。テレビなどの取材も結構受け、この時点でいったん目標を達成することができました」

順調に続いていたロボット関連の事業でしたが、思わぬ事態により足止めを食うことに。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「開発ラボの母体であった父の町工場が2009年に倒産したんです。今考えれば、事業のマネタイズも難しかったし、明確なビジネスモデルも打ち立てていなかった。いいものを作って売ることしか考えてなかったから継続が苦しくなってしまったのだろうなと。僕は父の事業に参画する際、別の法人を作っていたので、倒産後は、そっちでこれまで作ったロボットを使って教育関係のカリキュラムを考えたり、専門学校のロボット学科の起ち上げに携わったり、コンサル的な立ち位置で一人会社をやっていました」

一時期は開発に対するモチベーションも落ち込んでいましたが、新たな潮流により、かつての情熱を取り戻します。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「2011〜12年頃にメーカーブームみたいなのがあって、IoTやハードウェアが注目を浴びる時代になったんです。その時にシングルボードのコンピューターや3Dプリンターで作った外装を組み合わせて形にし、クラウドファンディングでお金を集めて起業しましょう、商品化しましょうという動きがすごく新しいと注目されたんです。それを見ていると、僕らはそれを2007年ぐらいにやってたよということを思い出して、その手法でもう一度、開発をやろうと、ラボ時代の仲間に声をかけました」

2012年頃に起きたテック系の起業ブームがPLEN Robotics設立のきっかけとなりました

再起動した赤澤さんのチームは、それまでの二足歩行の人型ロボット開発をさらに推進。クラウドファンディングで成果を上げ、PLEN Roboticsの設立へと繋がっていきます。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「それまでB toBってあまり意識してなかったけど、PLEN Roboticsを設立し、PLEN Cubeの開発を始めてから法人に目を向けはじめました。自分の中でマーケットのカテゴリーが変わりましたね。ロボットやハードウェアのブームって上がり下がりを繰り返していて、2004年以降は、人間型ロボットの流行や東大発のロボットの会社をGoogleが買ったり、Alexaのようなスマートスピーカーが登場したりという流れがありますが、キラーコンテンツがなかなか誕生しなかった。それが、コロナがあったことで自動化のロボットやハードウェアが注目され、また潮目が変わりつつあるかもしれません」

既存のサービスと融合して、より効率的な社会を

PLEN CubeでAIやコンピューターに馴染みが薄い層に向けた利用性を提示した赤澤さん。PLEN Roboticsの将来、そしてロボット開発の未来について、どのようなビジョンを描いているのでしょうか。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「近年、ロボット開発は、ハードウェアがネットワークに繋がるかどうかが前提になっています。ハードウェアはだんだんシンプルになっていくという傾向にあり、基本的な仕事はクラウドにやらせて、外に出ているハードウェアはセンサーなどの用途が拡大していっています。ドローンの登場というのも一つの方向性として大きかったと思います」

PLEN Cubeは既存のサービスや生活様式と融合し、違和感なく浸透させることを目標としています

「当社では今後、PLEN Cubeの開発をさらに進め、世の中をさらに効率化させていきたいと思っています。そのようなサービスを作る際、通常は誰がツールのデファクトというかフォーマットを取るかというのが勝負になってきますが、イチから全部の世界観を作るのは大変です。我々は世の中にあるサービスとPLEN Cubeを繋げることで、現状のリソースでも究極の自動化や無人化がもっと早い時間で構築できるのではと考えています」

多忙な日々を送る中、休日には新しい楽しみに打ち込むように。

赤澤夏郎さん(以下:赤澤さん)

「昔は、冬はスキー、夏はサーフィンなどスポーツに打ち込んでいました。会社を作ってからは、そんな時間もなくてちょっといじけていたのですが(笑)、最近になって近畿圏内の低い山々に毎週末、家族で登るようになりました。若い頃は北アルプスなどに登っていたから近くの山なんて全然意識してなかったけど、生駒や箕面など、意外と楽しめる山が多いやんって。ハマったついでに低山に特化したYouTubeも始めたので、今後も定期的に投稿を続けていこうかなと思っています(笑)」

学生時代からアウトドアスポーツはひと通りやったという赤澤さん。現在は低山ハイクの魅力を発見し、新たな趣味として楽しんでいます

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PLEN Robotics株式会社

PLEN Robotics株式会社

主力商品であるPLEN Cubeの開発・製造のほか、プログラミング学習の教室やコンサルティング業務も展開。国外からも優秀なスタッフを招き入れ、自社の開発技術を世界に広めている。

PLEN Robotics株式会社

住所/大阪府大阪市北区豊崎4丁目6−番3号 クレピス21 303号室

電話/06-4256-6630

営業時間/10:00〜19:00