「未完成住宅」や「プラモ家具」など、暮らし方に新しい提案を

9株式会社 代表取締役 | 久田一男

リノベーションの対象は住宅から空家・遊休地まで。9株式会社(ナイン)の久田一男さんが目指すのは、ファッションのように「あなたらしさ」を大切にする住まいづくり、その先にある街づくりです。自分らしく生きられる礎は、愛せる家、愛する街にしか育たない。そんな理念のもと、それぞれが愛せる街を見つけ、住まいをつくるための事業をさまざまな角度から開発しています。

久田一男

9株式会社 代表取締役 | 久田一男

ひさだかずお/1964 年生まれ。コム・デ・ギャルソンに憧れ、ファッションデザイナーを目指すが挫折、⼤⼯に転身。 2011年に9(ナイン)株式会社設⽴。2020年「未完成住宅」の販売サービス開始。コロナ禍に多様なホテルを開発しヒットさせる。まちづくりサロン「ReHOPE」プラモ家具「3×6(サブロク)」等の事業ディレクションも行う。リノベーションオブザイヤーを多数受賞。(一社)リノベーション協議会前関西部会長。

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家を育て、家に育てられる。そんなまちづくりを目指して

新築マンションや建売住宅を買うと、住み手の個性は家具でしか出せません。また、オーダーメイドリノベーションや注文住宅は難易度も価格も高くなってしまいます。「ファッションをコーディネイトするように、もっと簡単にあなたらしい家を」と考えた、9 株式会社(以下、9)の代表を務める久田一男さん。今、その答えとして展開するのが、完成度90%で販売する家「未完成住宅」、そして誰にでもつくれる家具「プラモ家具」です。自分でつくる家から、子供たちの感性を育みたい。その先にあるまちづくりのビジョンまでを伺いました。

久田一男さん(以下:久田さん)

インタビューは 9(ナイン)1 階・ハンドドリップ珈琲が飲める「ReHOPEサロン」で行われました

久田一男さん(以下:久田さん)

「90%完成させた状態で販売する『未完成住宅』は、床材や壁紙、そして家具を住み手自身に選んでいただきます。インテリアコーディネイトは難しいと考えられる人も多いかもしれませんが、ファッションは自分でコーディネイトされているはず。インテリアの流行のうつりかわりはファッションより遅いので、あまり気負う必要もないんです。ファッションも売っているものの組み合わせで十分自分らしさが出せていますよね。家はフルオーダーしないと自分らしくできない、というのは幻想なんです。僕が『あなたらしい家を』と言うのは『あなたらしい服を着ているなら、できますよ』ということ」

未完成住宅はこのように、壁と床が貼られていない状態で販売される

久田一男さん(以下:久田さん)

「日本のインテリアのレベルは世界と比べると明らかに低い。新築マンションや建売住宅で使われる建材が同じようなものばかりだから、個性的な家具が合わないんです。ビジネススーツに今シーズンのパリコレで発表されるアクセサリーを合わせられないのと同じです。家具はアクセサリーなので、ベースとなる壁紙やフローリング、ドアや照明からコーディネイトしないと、インテリアのレベルを高めることはできません。今の日本の住宅は、性能がよいビジネススーツだと思います。性能は残して、自分なりにアレンジできる余地を提供したいと思って開発したのが『未完成住宅』です」

床と壁紙と家具だけもあなたらしくできる未完成住宅の完成事例

久田一男さん(以下:久田さん)

「ファッションはよく表面だけを繕うものと言われます。しかし、それは違います。僕の友人がカジュアルファッションから、仕立ての良いスーツを着るようになったんですね。最初は違和感があったのですが、いつの間にかそのスーツが似合うようになり、誰が見てもベンチャー企業の経営者だとわかるようになりました。服がその人を変えることもあります。何十年も着替えることができない家は、ファッション以上にそこに住む人へ影響を与えるはずです。例えば、子供たちがビジネススーツを着て育つことを想像してみてほしいんです。家だって、住む人のパーソナリティに合うものを選んだ方がいい。それが住む人自身を変えていくはずです」

TBS『がっちりマンデー!!』にて「未完成住宅」が特集された

9(ナイン) の主力事業は空家・遊休地を利用した街づくり。宿泊施設のプロデュースも多く手掛けており、その人気物件の一つは築90年の大阪長屋をリノベーションした「9別邸大阪谷町|MAISON DE 9」。

久田一男さん(以下:久田さん)

「海外の識者が雑誌に書かれていたのを読んだんです。『日本人は美しい宝石を捨てて砂利を拾っている』と。大阪長屋はその宝石の一粒です。私は埃をかぶっていた宝石を研いただけなんですね。具体的に言うと、ペンキを塗っただけです。ペンキを塗るだけでこれだけの美しさを放つ宝石だということ。でも、今もこの宝石はどんどん捨てられ、砂利のような建物に変えられています。世界中の人に、この美しい日本の宝石を見てもらいなと思ってこのホテルをつくりました」

大阪泉南にプロデュースしたグランピング施設「アーバンキャンプホテルマーブルビーチ」。淡路島西海岸・山形県蔵王でも新プロジェクトが進行中

久田一男さん(以下:久田さん)

「コロナ禍で旅行業界は困難な局面もありましたが、それを逆手に取ったのが大阪泉南ロングパークの 『urban camp hotel marble beach』です。40フィートのトレーラー20台でつくったグランピング施設で、コロナ禍にあってもほぼ満室稼働が続いています。その理由は、全室オーシャンビューの独立型ヴィラタイプで、コロナの感染リスクが低いということ。デッキにはジャグジーとバーベキュースペースがあり、ここ数年のアウトドアのブームを手軽に体験できるところも魅力になっています。また、トレーラーハウスは建築物ではなく車両なので、面倒な建築確認申請も不要ですし、固定資産税も不要。減価償却が6年なので節税にもなりますし、車ですからいざという時はすぐ移設できます」

大阪難波 ギャラリーホテル「DISTORTION9」

「大阪難波・御堂筋沿いに建つギャラリーホテル『DISTORTION 9』は、デザインだけでなく運営も弊社で行なっています。大阪の中心部を見渡せる露天風呂があり、非日常感を楽しんでいただける客室が人気です。ここでは滋賀県のやまなみ工房という施設に入所されている知的障がい者の方によるアウトサイダー・アートを設置しています。床は下地に使う工業系の素材、壁はビニールクロス、家具は僕たちの開発した組み立て式の『プラモ家具』と、材料費についてはこれより安くすることは不可能なホテルですが、アートは空間の印象を大きく変えます。日本の家にももっとアートがあれば、アートが身近なものになる。日本でアーティストを志す子供たちがもっと増えるはずです」

ファッションから建築の世界へと異色の転身をし、今も美しいデザインを信条としている久田さん。建築を志したきっかけとは。

久田一男さん(以下:久田さん)

「僕たちは昔、和服を着ていました。洋服は欧米の人たちのものです。僕たちが洋服を着ているのは、フランス人がみんな和服を着ているようなものですね。似合うはずがない。似合わない洋服を真似事のように作っていた日本ファッション業界の中で、コム・デ・ギャルソンの川久保玲さんが、女性をいかに美しく見せるかを競い合う世界最高の舞台パリコレで、女性のボディラインを全く無視した真っ黒のスタイルを発表されたことに心の底から衝撃を受け、自分を顧みず同じ道を志しました。しかし、自分にそのような才能はなく挫折し、ファッションより30年は遅れているインテリアなら戦えるかもしれないと、30歳で大工になりました」

大工時代の久田さん。久田さん自身がまるで「リノベーション」されたよう

自宅を一人でDIYし、ショールーム化して開放するという型破りな方法でリノベーションを生業に

その後現場で大量の汗を流しながら、大工として一人前になった久田さん。

久田一男さん(以下:久田さん)

「2000年頃、メディアからリノベーションという言葉を聞くようになりました。僕も挑戦しようと思い、自宅として購入した神戸須磨の海が一望できるマンションを一年かけて一人きりでリノベーションし、そのままショールームにしたんです。100人以上の来場があり、その中のお二人方から『久田さんに全てお任せします』と言っていただいてリノベーション事業を始めることができました。それからは、住宅だけでなく店舗などリノベーションだけでも400件以上の案件を手がけ、2011年11月1日に9(ナイン)株式会社設立。現在に至ります」

「リノベーションオブザイヤー」を多数受賞

たどり着いたリノベーション業界で、今や毎年のように業界の賞を受賞している久田さん。次に見据えるのは「街」だと言います。

久田一男さん(以下:久田さん)

「リノベーションを20年やってきて、自分らしい家に住みたいと言う人は確実に増えたと感じます。日本の住宅業界の中に、均質的な住まいではなく、個性的な住まいに住もうと言うムーブメントが起こったんですね。僕は、その次のムーブメントを起こしたい。家だけでなく、街を一緒につくっていこうという『リホープ』という概念を展開したいと考えています。まちづくりについて行政から相談をいただくこともあるのですが、いわゆる大きな箱物をつくって人を集めるというモデルケースは、すでに限界が来ているし、明確な結果が出せないのが実状。僕らがやろうとしているのは、もっと身近なものです」

事業再構築補助金を使って一つの街に集中して出店すれば、街自体の価値を上げることができる

久田さんが考える「まちづくり」には、よく知るロールモデルがあります。

「僕の友人に和田欣也さんという正体商売不明(笑)の方がいるんです。彼は10数年前から「がもよんプロジェクト」と銘打って、ごく普通の街だった大阪蒲生四丁目の空家を利用し、1店舗ずつ飲食店の誘致とプロデュースを行ってこられました。 今ではその数が30 店舗ほど。飲食店は競争が激しく、一年で約半数程度が閉店され10年残るのは1割といわれていすが、和田さんプロデュースのお店は一店舗もつぶれていません。どの街でも、同じ考えの人が協力すれば実現できる例だと思います。今、コロナで影響を受けた企業が新規事業を始めるにあたり、最高1憶円までの助成が受けられるという制度があります。事業再構築という補助金ですね。志のある会社や事業者が 5社集まれば、街に5件のお店ができます。それが街を変えるきっかけとなります。一緒に街を変えたいと思われたら、ぜひ一度連絡をしてください」

志のある会社や事業者とのコラボに意欲的な久田さん

住宅を彩るインテリアについても、遊び心あふれるユニークな商品を開発されています

久田一男さん(以下:久田さん)

「『プラモ家具』といって、文字通りプラモデルのように簡単に組み立てて実際に使える家具の販売を始めました。これは、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えるために開発した、実際に家具として使えるプラモデルです。子供たち向けのワークショップも開いているのですが、たった数千円の材料でつくったスツールを宝物のように持って帰る子供たちをみて、こちらが感動をもらっています。プラモ家具はゴムハンマーさえあればほとんどの商品を組み立てることができるので、バラすのも簡単だし、模様替え用 にストックしておくこともできます。色を塗ったりカスタムしていただくことで、より楽しんでいただけると思います」

「プラモ家具」。左の板状で販売され、組み立てるとテーブルとスツールになる

完成した嬉しさが弾ける「プラモ家具」ワークショップ

既存の不動産や建築業界の中からは生まれてこないでアイデアを生み出し続ける久田さんですが、自身の実績を振り返り、こんな言葉も。

久田一男さん(以下:久田さん)

「これまでいろいろなデザインや事業を考えてきましたけど、そのほとんどの結果に満足できていません。僕たちの仕事は作曲みたいなもので、アイデアが湧いてきたら どんどん形にしていきたいと欲求に突き動かされるのですが、せっかくなので、死ぬまでにはミリオンヒットを出してみたい!(笑)。長くこの仕事をやってきて、新しく情報をインプットすることはもうあまりなくて。今、僕にとっては田舎の古い日本家屋で育った子どもの頃の思い出がデザインの源に なっています。そういう意味でも、幼少期にどんな家や街で暮らすのかということは、人々の生活を構成する上ですごく重要な要素になってくると思います」

久田さんを育んだ滋賀県永源寺・築90年の農家。10年前に土間の部分をリノベーションした

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9株式会社

9株式会社

店舗や住宅、宿泊施設の開発・リノベーションを中心として、空家空ビル遊休地のリノベーション、街づくりを推進。同ビル1Fにて街づくりサロン「ReHOPE」を展開中。

9株式会社

住所/大阪府大阪市西区立売堀 4-7-25 リホープ大阪うつぼ公園ビル

電話/0120-234-401

メール/info@ninedesign.jp 

営業時間/11時30分~20時30分(1Fリホープうつぼ公園内 ゆき農園珈琲)

定休日/水曜定休(1Fリホープうつぼ公園内 ゆき農園珈琲)