革職人のこだわりと生き様を広く届け、小売業の未来を創造

株式会社プリンシプル代表取締役 | 村田光俊

WebやITが発達し、オンラインでのショッピングが盛んになる中、あえて実店舗でのコミュニケーションに重きを置く革製品のセレクトショップ・FREE SPIRITS。同社を運営する村田光俊さんの営業方針には、日本のものづくりを支える職人への多大なる敬意が込められています。

村田光俊

株式会社プリンシプル代表取締役 | 村田光俊

むらたみつとし/1983年生まれ。大学で会計学を学び、卒業後、船井総合研究所に入社。WEBコンサルティングチームのリーダーとして、さまざまな業種のプロジェクトを成功に導く。2012年に退社し、2013年6月、株式会社プリンシプルを設立。革製品のセレクトショップであるFREE SPIRITSの実店舗とECサイトを展開している。

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革製品の素晴らしさを実店舗で体感

長引く不況やインターネットの発展、加えて2020年からのコロナ禍の影響で、販売業はこの10年で世界的に大きな変化を経験。オンラインショッピングが日常化したことで実店舗を放棄する商店も増えてきました。

 

日本各地の職人が制作する革製品を取り揃えたセレクトショップFREE SPIRITSは、大阪・神戸の店舗、そしてECサイトで積極的に販売を促進。同店を運営する株式会社プリンシプルの代表・村田光俊さんは、アナログとデジタルを融合させた、新時代における小売業のあり方を示しています。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「長い年月で築かれた人間との深いつながりが革製品の魅力」と語る村田さん

村田さんの仕事におけるモットーは、“生きている”を実感できる商品を顧客に届けること。それは革製品そのものの魅力にも通じています。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「革って200万年ぐらい前から人間を守り続けてくれているので、その付き合いは、もはやDNAに刷り込まれているぐらい深いと思います。僕、ファッションにはそんなに興味はないのですが、革製品は、そういったものを越えて時流に流されないし、一度死んだ動物の革に新たな形を与えることで生き返るというところに普遍性を感じます。質の良い革製品は、持っていることで自分のモチベーションアップにも繋げられる。そういったところに革の魅力が内包されていると思いますね」

FREE SPIRITSで取り扱うブランドは、知名度においては途上にあるものの、そのクオリティは折り紙付き。村田さんが職人たちと顔を突き合わせながらチョイスを重ねた商品は、大量生産では決して得られないこだわりが光っています。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「いいなと思った商品があれば、僕が職人さんや工房に直接『売らせてください!』と電話します。すべて飛び込み営業で。職人さん側も、これまでにそういった話しは数多く受けてきたけど、だいたいが1回発注されて終わり。それはショップの人に売る力がないのが原因ですが、そういった状況に辟易されているので、僕らも最初はシャットアウトされます。こちらも自分の思いは伝えますが、きれいごとだけ言っても仕方がないので、信頼してもらうには実績を示すしかない。とにかく売りまくって認めてもらい、他店ではお目にかかれない、高品質な商品を豊富に揃えることができました」

FREE SPIRITSの店舗には村田さんがセレクトした逸品が並びます

ECサイトでは顧客が狙いをつけて商品を購入しますが、実店舗は偶然的に商品の魅力を知るという出会いの場。また、職人たちにとってもモチベーションを高める要因となっています。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「大阪店のあるルクアイーレは梅田の中心地で、都心の商業ビルに自分たちの商品が置かれているというのは大きな喜びに繋がります。そこから他の職人さんを紹介していただける機会も増えました。ただ、僕らの業態は利益率が他の業種に比べて低いし、この場所の家賃を払っていくなら、よっぽど売らないとやっていけません。そのためには、運営側が売れる仕組みづくりを懸命に行っていますし、現場の販売スタッフたちには、商品に命を吹き込んでもらうため、職人さんに直接会いに行ってもらっています」

都心の一等地に建つルクアイーレでの商品展開は職人たちにとっても大きなモチベーションに

村田光俊さん(以下:村田さん)

「大量生産の商品ならそんなことをする必要もないけど、僕らの場合、FREE SPIRITS がコケると職人さんの収入や未来に影響する可能性もある。他のお店に比べて背負っているものが比べ物にならないぐらい重いんだよ、と常に言っていて。僕らは自社製品の工房も持っているので、おそらく全然手の届く値段でパターンオーダーやフルオーダーに対応もできます。ここまでのことをやっていてFREE SPIRITSで買わない理由なんてないと自負しているのですが、あるとすれば、、、教えてください(笑)

普通な自分を覆すため激務の道へ

村田さんは、三重県津市で誕生後、家族で神戸に転居。中学から関西学院に入学し、野球少年として部活に打ち込む日々を過ごしていました。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「中高一貫で野球に打ち込み、部活も遊びも常に部員たちと一緒。関西学院は歴史も長く結構な強豪校で、僕も当時は本気で甲子園を目指していました。卒業後は、そのままエスカレーターで大学に進学。勉学もサークル活動も楽しんでいたのですが、ある時ふと、自分は特にハングリーな環境にいるわけでもなく、強烈な原体験をバネにのし上がって何かを成し遂げるわけでもない、すごく普通の人間だということにすごく焦りだしたんです」

中高一貫で野球に打ち込んでいた村田さん。母校・関西学院の野球部は長い歴史を持つ強豪校として知られています

自身の存在意義に疑問を感じた村田さんは、さまざまな書物を読み漁り、行動に移すように。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「平均寿命も短く、ストリートチルドレンたちがたくさんいるような国の人々を少しでも助けることができればと思ったんです。それで大学時代にアジアやヨーロッパを30カ国ほどバックパッカーとして旅したのですが、危険な地域に踏み込んでまで貧困にあえぐ人々を救えたわけでもなく、やっぱり何も変われなかった。つくづく自分のつまらなさを実感してしまい、じゃあどうすれば良いのかと考えたら、これは、もうめちゃくちゃ働いて自分の価値を上げるしかないと。それで船井総研に入社し、昼夜も忘れるぐらい仕事に打ち込むことにしたんです」

コンサルティングの精鋭が集まった船井総研。村田さんはWebやITの潮流と自身の案件を絡めながらさまざまなプロジェクトで実績を積み上げます

日本のコンサルティング企業の中でもトップクラスの業績を誇る船井総研は、激務を望んでいた村田さんにとって、これ以上ない理想の職場でした。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「大学を出たての22歳の若者が、いろいろな企業の経営者に対して改善のアドバイスをして給料をもらうなんて、なかなかありえないですよね。しかし、この仕事を請け負ったからには徹底的にやるしかない。死にものぐるいでクライアントに尽くして、やっと『ありがとう』と言ってもらえるぐらいですが、それぐらいハードな状況に身を置けたのは良い経験だったと思います。あと、船井総研は師事したい上司を自分で選べるのと、時代的にWebやITの波が来ていたので、そこに乗ることができたのも良かったと思います」

一般的にはスマートな印象のあるコンサルティング業務ですが、村田さんはクライアントの懐に飛び込み、ひたすら膝を突き合わせるという地道なスタイルで、さまざまなプロジェクトを成功に導きます。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「僕は、自分が携わった会社を、その業界で日本一にするという信念で、クライアントの社長と打ち解けたらご自宅に呼ばれて食事を御馳走になり、ご家族全員となじみになるなど深いお付き合いをさせてもらってきました。どの仕事もやりがいのあるものばかりでしたが、中でも印象深かったのは、生コンクリート屋さんの案件。新規事業の提案をお願いされたので、節水というテーマで雨水タンクをセレクトし、ネットショップで展開したら1年後には、日本のシェアの確か40%くらいを占めるようになって。学校の教科書にも取り上げられ、行政からも治水や防災のことで生コン屋さんに問い合わせがあったとか。クライアントだけでなく社会にも貢献できたことが嬉しかったです」

独自のスタイルでコンサルティングを展開していた村田さんでしたが、新たなるチャレンジ=小売業に挑戦すべく独立の道を進みます。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「コンサルティングって、お客様の成功と要望が第一なので、なかなかチャレンジングなことがしにくいんです。あまり突飛なことを思いついても、『すごいけど、その8割ぐらいで抑えといてね』という感じ。案件を成功させるには、基本的に過去の事例から共通項を導き出すことが道筋とされるのですが、不確実な世の中で確実性を求められると、その方法では情報が遅い。未来を創ろうという時に、その遅さは、すごく気になってしまうんです。僕はWebやテクノロジーを扱う部門にいたことで、そこにコンサルティングの限界があるなと感じていました」

村田さんが船井総研で初めてコンサルティングを担当したのはお祭り用品の会社。以後、アパレル、美容、スポーツ用品など幅広いジャンルを手掛けます

「正直、儲けるだけなら、初期投資もいらないし利益率100%だから絶対にコンサルティングをやった方がいい。でも、僕がお付き合いしていた小売業の経営者の人たちは自分の生き様を商売にされていて、在庫や家賃、人件費など、さまざまなリスクを抱えながら『自分たちが未来を創る!』という気概にあふれていた。そこには損得勘定では推し量れない、地べたで生きている!という熱量を感じたし、自分もそんな人達のいる世界に飛び込みたいなと思ったんです」

船井総研を退職した村田さんは2013年に自身が代表を務める株式会社プリンシプルを設立。実店舗であるFREE SPIRITSを軸にECサイトも展開し、アナログとデジタルの両面でこだわりの製品を広くアピールしています。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「プリンシプルは、良いものを作っても広げる術を持たない職人さんに代わり、商品を販売するために起ち上げました。プリンシプルには普遍性、原則という意味があり、僕らの事業で言うと、それは実店舗や職人さんの生き方。そこにテクノロジーを融合させ、繋がる可能性のあるお客さますべてにアプローチすることをモットーとしています。こだわりに寄り過ぎると売上を出せないし、テクノロジーだけだと薄っぺらい。プリンシプルは、その2つを融合させることができるし、なおかつ僕が船井総研時代からWebやITに携わっているので情報の質とスピード感もしっかり担保できるのが強みです」

FREE SPIRITSの公式サイトより。知名度的にはマイナーながらハイクオリティな革ブランドが紹介され、職人の世界の奥深さを知ることができます

コロナ禍で再認識した職人たちへの思い

パリでのポップアップも行うなど、右肩上がりの評価を獲得しているFREE SPIRITS。今後は国内での店舗拡大を検討しており、村田さんセレクトの革アイテムが日本中に知れ渡ることが期待されます。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「現在、大阪と神戸のお店に遠方から多くのお客様が来てくださるのですが、移動だけで長い時間をかけていただくのはしのびない。そこで、なるべく2時間以内に僕らがお客様と会えるよう、主要都市に1軒ぐらいの出店ができればと考えています。ポップアップについてもさまざまな地域からご要望をいただいているのですが、2022年中に東京では確実にやると思っています。その次に名古屋あたりかなと」

パリのポップアップストアでも絶賛されたというBEERBELLYのバッグ。伝統模様である唐長の南蛮七宝がポップにアレンジされています

店の中枢をなす職人とのコミュニケーションについても村田さんのこだわりが。

村田光俊さん(以下:村田さん)

「もちろん自社工房への思い入れはありますが、そもそも僕らは知られざる職人さんたちの逸品を扱っているので、そこを疎かにするとセレクトショップの体をなさなくなります。彼らの生き様を伝えながら僕らの思いも乗せさせてもらうという軸だけは絶対にずらしてはいけない。僕らが取引している職人さんは、大手の下請けをやりつつオリジナルブランドも展開していることが多く、コロナ禍では大手の流通や百貨店が打撃を受けたことで在庫が溢れ、発注が止まるという形で彼らもダメージを受けています」

村田さんはじめスタッフたちは職人のもとを訪れ、自身が販売を手掛ける商品に対する思いを深めていきます

「日本のものづくりではOEMで無理難題を言われながら技術を上げていくという状況もありますが、下請けの売上が90%を越えているようなところは、今回のようなケースだと確実に潰れてしまう。職人さんたちがオリジナル商品で売り上げを立てられるような体制を僕らが作らなければいけないんです。オリジナル商品だと自分たちの責任だから遊び心とクオリティが担保され、販売実績を作れば状況も改善されるのではないかと。理想として は職人さんたちが思い描くそれぞれの比率(50:50くらいが良いな、と言われる方が多いかなという願望)になるように持っていけたらいいなと思っています

地方の顧客が手軽に店を訪れることができるよう店舗の拡大を検討中

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FREE SPIRITS大阪

FREE SPIRITS大阪

財布を中心に、カバンや小物など、腕利きの職人たちが製作したオリジナルの革製品をラインナップ。自社工房の製品も取り扱っており、さまざまなオーダーにも対応する。

FREE SPIRITS大阪

住所/大阪府大阪市北区梅田3-1-3 LUCUA 1100 8F

電話番号/06-6151-3182

営業時間/10:00〜20:30

定休日/無休(施設に準ずる)

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