意外と知らない身近な素材。ダンボールを通じて人と人を繋ぐ

みんなのダンボールマン | 小仙浩司

私たちの生活とは切っても切り離せないダンボール。日本国内で約90%のリサイクル率を誇るこの資源の普段見過ごされている可能性を模索するため、“みんなのダンボールマン”こと小仙浩司さんは全国各地を飛び回っています。

小仙浩司

みんなのダンボールマン | 小仙浩司

こせんこうじ/1980年生まれ。大学卒業後、建築事務所勤務を経て、東大阪市のダンボール印刷の製版会社でDTPオペレーターとして働く。同時に“みんなのダンボールマン”としてダンボールの魅力を発信するワークショップを開催。2019年よりフリーランスに転向し、企業や個人事業主、デザイナーとダンボール業者を繋ぎ、資材の調達やアーティスティックかつ利便性に長けたダンボールのデザインや製造のディレクションを個人で担っている。

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ワークショップを通じてダンボールのリユースを促進

商品の梱包から引越の荷造り、子どもたちの工作まで、私たちの生活と密接な関係にあるダンボール。ありとあらゆる場面で使われながら、どのような過程を経て使用に至るのかを知る人は、あまり多くありません。

 

個人や企業と製造工場をつなぎ、ダンボール調達の仲介・流通を行っている小仙浩司さんは、“みんなのダンボールマン”を名乗り、全国各地で工作体験のワークショップを行ったりイベントに出展。幅広い層にダンボールの魅力を伝えています。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

ダンボールマンに扮する小仙さんは、服の色からメガネまでダンボールのイメージを全面に打ち出しています

小仙さんがダンボールリユースの可能性を広めるための活動を始めたきっかけのひとつには、地震をはじめ各地で発生する自然災害に対する防災意識が大きく影響しています。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

「東日本大震災以降、防災関連のワークショップを依頼されることが多くなりました。僕のダンボール工作の師匠で、2リットルのペットボトルが入る空き箱で簡易的なスツールを考案し、そのアイデアをオープンソース化されている方がいて、まずはそれを広めるお手伝いをしようと思ったのがきっかけでワークショップを始めて、今は救援物資で届いたダンボール箱で出来ることのアイデアストックに取り組んでいます。ある程度の強度があるダンボールなら、簡易トイレや本棚、靴箱なども作れるので、こういったアイデアを共有するのは非常に有意義なことだと思います」

小仙さんのワークショップは幅広い年代を対象としていますが、特に子ども向けに開催されるものでは、こんなユニークな活動が。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

「最近よくやっているのが、買取ワークショップでして(笑)ダンボールを3枚におろして作ったカードにダンボールマンのキャラクターを描いてもらって、僕がその絵を100円で買い取るのですが、子どもたちの絵はどれも傾向がさまざまで本当に面白いんです。最初は子どもに現金を渡すのはどうかなと思いましたが、代わりに僕が作ったダンボールバッヂと交換したとしても、いらないかもしれないし。100円なら他の出店者さんのお店でも使えるし、ガチャガチャだってまわすことができます!なので、僕の出展ブースには僕が作ったダンバッヂが当たるガチャマシンを置いてます(笑)」

子どもたちが描いたダンボールマンのキャラクター。「前の子に引っ張られて、カブトムシやクワガタの絵が続くなんてこともあって、それも含めて面白いです(笑)」

「実は、もともと当時5歳の娘と一緒に出展したイベントで、娘が描いた絵をノリで売っていたら、そういうワークショップだと勘違いしてやってきた子が『私も描くので一緒に売ってほしい』言ってくれたのが始まり。さらに嬉しいのが、後ろで見ていたその子のお母さんが『自分の娘が初めて人のために描いた絵だから私がほしいです』と買ってくださって。ショートカットすれば、お母さんがその子に100円をあげたのと変わらないんだけど、この絵を通して目の前で経済が循環し、しかも温かい気持ちになれて、本当にやって良かったと思いました」

ワークショップでまわせるガチャガチャマシン。さまざまなダンボールのグラフィックを切り取ったダンバッジが入っています

ワークショップでさまざまなダンボール工作を展開する小仙さんに、製作時のワンポイントを教えていただきました。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

ダンボールって波状の紙をボール紙で挟んでいるので、一方向に目が走っているのですが、この向きをうまく使うといろんな工夫ができ、縦と横の目を網状に重ねれば、かなりの強度を担保できます。僕自身は作家ではないので、あまり造作的なことはしませんが、世の中にはたくさんのダンボール作家=ダンボールマンがたくさんいるので、そういった人たちを紹介するという意味で、僕は自分の肩書を“みんなのダンボールマン”にしています」

全国に拠点を持つ、フリーランスのダンボール業者に

岡山で生まれ育った小仙さんは、高校を卒業後、沖縄の大学で建築を学んでいた頃に固定概念を覆すダンボールとの出会いを果たします。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

「九州に住む友人のところに遊びに行ったらドタキャンをくらって、ネットカフェでも行こうと街を歩いていたら、ダンボールで寝床を作っている人たちに遭遇したんです。当時、セルフビルド建築にも興味を持っていたので、しばらく様子を見ていたら、ある人のダンボールが全部、引越業者のかわいいキャラクターが描かれたもので、完成した寝床にズラッとパンダが並ぶ光景に感銘を受け、ダンボールのスーパーフラットな魅力とグラフィックの多様性に惹かれたんです。それで大学卒業後に建築事務所で働いたあと、東大阪市にあるダンボールの印刷に関わる会社に入社しました」

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

全国各地で開催しているダンボールのワークショップには娘さんが参加することも

通常CMYKという4つの色の組み合わせで構成される印刷デザインとは異なり、基本的に単色で作成されるダンボール印刷は小仙さんの志向ともマッチしていました。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

ダンボールのグラフィックは標準色が11色あって、その中から1〜2色を選んでハンコを作成、印刷するのが基本です。ちょっと大きい工場だと3色や4色の機械を持っていますが、4色も使うのは本当にまれですね。もともと普通の印刷業界に興味を持っていたのですが、色校作業がすごく苦手で(笑)。その点、ダンボールのグラフィックは割り切った潔いデザインが多く、昔から好きだったロシアアヴァンギャルドのポスターのデザインに通じるところがあると思いました

小仙さんの自宅にストックされ、出番を待つダンボールたち

東大阪で約9年半、ダンボールのグラフィックデザインを経験した小仙さんは、個人でさざまなプロジェクト参加を経て、横浜へと居を移します。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

横浜のダンボール工場に印刷用のハンコ(印版)を手彫りする職人さんがいて、その方の後を継ぐという求人に応募しました。その工場ではメインの印版はデジタルで作ったものを使用するけど、突然のトラブルに対し応急処置的に印版を手彫りできる人が必要だということで、まだそうゆう職人仕事が残ってて。ただ、在職中に手彫版用の材料の供給が止まり、結果的にその仕事もなくなっちゃって。その頃には僕も業界のことはだいたい分かってきたし、大阪にいたときからお客さんやデザイナーさんと打ち合わせしたものをダンボール屋さんに作ってもらうという事をやっていたので、これを増やせばなんとかなるかなと思い、完全に流れで独立しました

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

フリーランスとなった小仙さんは自宅を作業場にする予定でしたが、当時の家庭環境を鑑みて新たな仕事の仕方を模索します。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

子どもが小さかったこともあり、自宅だとどうしても作業がはかどりませんでした。ちょうど家の前のガレージが空いていたので、元々乗りたかったプロボックス・バンという営業車を買って、その中に家から電気やWi-Fiを引っ張って仕事をすることにしたんです。今、バンライフといって同じような暮らし方をしている人が結構たくさんいて、そういう人たちのコミュニティに入ったら、あるバンライファーが山梨の八ヶ岳でバンライフをしながら仕事ができる拠点づくりをしていて

独立後に購入した車がオフィスを兼用。ダンボールを積み込み、全国を走り回っています

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

これは、ある不動産関連の企業が展開している事業で、毎月の利用料を払えば提携している全国のワークスペースや宿泊施設を使えるんです。僕の場合、全国各地で、ジャムを作ったとか、お酒を作ったということでパッケージのご相談をいただく機会も多く、なるべく直接現地に行くようにしているので、各地で拠点を探しながら利用しています。現在、1ヶ月の半分は車で日本中を転々とし、もう半分は岡山で家族と過ごすという生活。こういう働き方をしている人たちって、それぞれ競合するのではなく、みんなで面白いことをやっていこうという考え方なので、今後の社会や自分のスタイルにも合っているなと感じます

新キャラも登場!? ダンボールマンの新たな展開

ダンボールの魅力は、繰り返せることにあると語る小仙さん。今後は新たなリユースの可能性の追求を目指しています。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

僕、学生時代から収集癖があって、ガチャガチャのおもちゃとかいろいろ集めるけど、ああいうのってゴミとして捨てるのにやっぱり少し抵抗があるんですよね。今、自宅にダンボールのコレクションがあって、ダンボールならいざという時に処分してもリサイクルされると思うと全然罪悪感がない(笑)。ただ、どうしても紙素材なのでリユースしても耐用年数は短くなるんだけど、ぼろぼろになったら資源ゴミの日に出して、また同じようなダンボールを探せば大丈夫。もともと収納箱や緩衝材としてなど、生活に近い再利用法をみんなすでにやっていて、そうゆうことをもっと意識したいと思っています。今はダンボールに無理をさせないリユース、アップサイクルに興味が向いています

ダンボールマンやワークショップの新たな展開を構想中の小仙さん

ワークショップの活動については、こんな展望も。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

今回の取材場所であるKNOT MARKET PLACEさんのドーナツの箱もデザイナーさんと一緒に製作を担当したのですが、工場に併設したカフェということで工具箱に見立てたデザインになっています。近々こちらでワークショップをさせていただく企画をたてているのですが、その時はこの箱に入れる工具もダンボールや廃材で作りたいですね。あとは、絵の買い取りをもっと掘り下げたいと思っています。ちゃんと、描いてくれた子と買ってくれた人をブロックチェーンでつないだり、機会があれば著名なイラストレーターの人にも参加してもらい、子どもたちの作品と一緒に並べて販売するというのをやってみたいですね!

今回の取材場所となったKNOT MARKET PLACEのドーナツ用の箱。工具箱のようなデザインがクールです

また、ダンボールマンの活動についても新たな展開を構想中。

小仙浩司さん(以下:小仙さん)

もともとダンボールも紙も森林を伐採するから無駄使いは良くないと言われていたのが、技術が進んで現在のように高い再生率を築くことができたように、今後、プラスチックもリサイクルの技術革新が進んだら、プラスチックマンへジョブチェンジをして、新たなダンボールマンの育成やプラスチックパッケージの受注もやりたいなと思っています。そして、いつかダンボールマンとプラスチックマンの関係性を描いた絵本なんかも作ってみたいですね。『最近、いつものダンボールマン見なくなったけど、どうしているの? え、時流に乗ってプラスチックマンに変身!?』みたいな(笑)

キャップに付いているDは、アメリカの食品企業ドール・フルーツ・カンパニーのダンボール箱からピックアップしたもので、ダンボールマンのトレードマークとなっています

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KNOT MARKET PLACE (ノットマーケットプレイス)

KNOT MARKET PLACE (ノットマーケットプレイス)

元自動車部員工場をリノベーションしたブレッド&ダイニング、ストア、ギャラリーを併設したコミュニティマーケットプレイス。同店がある中津6丁目を「N6‐エヌロク-」としてPRするプロジェクトを始動。飲食・物販・イベントなど様々な取り組みを通し、人と街とモノをつなぐ新スポットとして街全体を盛り上げることを目指している。

KNOT MARKET PLACE (ノットマーケットプレイス)

住所/大阪府大阪市北区中津6-7-22

電話番号/06-7507-1076

営業時間/平日11:00~22:00、土日祝8:00~22:00

定休日/水曜

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