技術の粋を結集した塩ラーメンで前人未到の地平を開拓

新宿めんや 風花 店主 | 植村達夫

今でこそ専門店も増え、メジャーになってきた塩ラーメンですが、約20年前の関西には、その土壌は、まったくありませんでした。独学で料理を研究し、京都で「新宿めんや 風花」を開業した植村達夫さんは、関西ラーメン業界における塩ラーメンのパイオニアとして、あとに続く数多くの後進たちに影響を与えてきました。

植村達夫

新宿めんや 風花 店主 | 植村達夫

うえむらたつお/1954年生まれ。水産会社での勤務を経て関西に移住し、居酒屋などの店舗を展開。2001年、京都で塩ラーメン専門店「新宿めんや 風花」を開業する。当時、関西では皆無だった塩ラーメンを独自のスタイルにアレンジし、大きな注目を集めた。

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飲み干したくなるマイルドな塩スープ

日本を代表する大衆食の一つで、誰もが口にしたことがあると思われるラーメン。全国各地でご当地の味を反映させ、豊富なバリエーションが存在するこの食べ物は、ライフワークとするマニアを数多く輩出。店の味を論じ合うなど、グルメの領域を越え、もはやカルチャーとして世の中に浸透しています。

 

2001年に京都で開業した「新宿めんや 風花」(以下、風花)もまた、多くのラーメンマニアたちが足を運ぶ一軒。店主の植村達夫さんは、それまで背脂醤油が主力だった京都で、塩ラーメン専門店として勝負を挑み、新たな地平を切り開きました。関西のラーメン業界に大きな影響を与えた塩ラーメン誕生の秘密とは。

植村達夫さん(以下:植村さん)

2000年代初期、関西では皆無に等しかった塩ラーメンを浸透させた植村さん

塩ラーメンと聞くと、しょっぱい味わいを連想する人も多いかも知れませんが、風花で提供されているのは、そんなイメージとは、まったく別次元の食べ物。ひと口含んでまず、風味豊かでマイルドなスープに驚かされます。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「スープの元になっている塩は石垣島産をメインに、あと2種類ほどブレンドしています。いろいろ吟味してたどり着いた塩ですけど、これが80グラム1200円と、まあ高くて(笑)。その塩の旨味を最大限に活かすため、塩水(えんすい)というのを作るのですが、これは日本料理などに使われる技術で、普通のラーメン屋さんは、ほとんど知らないと思います。作り方は、卵白に塩をまぶして揉んだものを火にかけて溶かし、浮かんできたアクをすくって完全に塩を飛ばす。この作業をひたすら繰り返すことで卵白が塩の角を取り、辛さがなくなるんです」

お店の定番「天然塩らーめん(並)」800円

「塩水は、ラーメンだけでなく煮物など、日本料理全般で塩の代わりに使えます。他の塩ラーメンのように直接塩を打たず、マイルドさを出せるのですが、手間がすごくかかるので、1日に出すラーメンで使う塩水を作ろうと思ったら、もう大変。大鍋で作って冷蔵庫に保管し、寝かせるほどにおいしくなるけど、だいたい、いつも閉店時間より前に使い切ってしまいます。塩ラーメンのお店に中でも、正直、ここまでの手間をかけてスープを作っている店はないでしょうね」

果てしないほどの時間をかけて作られた塩水は、動物系と植物系のダブルスープと融合。塩の旨味のみを引き立たせたマイルドなスープに昇華されます。そこに絡む自家製のちじれ麺もまた、こだわりを重ねて生み出された珠玉の逸品。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「麺は、粉の状況によって都度作り方が変わります。小麦粉の質が味を大きく左右するので、製粉所から『今度、こんな粉が出ました』って連絡があったら必ず自分で食べ、気に入ったらブレンドして新しい麺を作っています。あと、季節によって変わる加水率もすごく重要。これは余談だけど、関西と関東では粉の比率が微妙に違うんです。製粉屋さんと綿密なコミュニケーション取っているうちにそういうことも分かるようになってきました。麺は本当に日々、作っては食べを繰り返して試行錯誤しています」

植村達夫さん(以下:植村さん)

自家製の麺は、クリアなスープとの相性もバッチリ

ここまで手間ひまをかけた塩ラーメンを、なんと800円〜というお手頃価格で提供。採算度外視ともいえる姿勢には、妥協を許さない信念とともに、おいしいものを少しでも多くの人に食べてもらいたいという思いがありました。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「削り節も血合い抜きの値が張るものを使っていて。しかも一番ダシでしか使わないから、税理士の先生からはコストかかりすぎだって言われます。だから原価率ははっきり言って高い(笑)。でも、店が20年続いているのは、こういうこだわりを持ち続けているからだし、僕はラーメンを金儲けの道具とは思っていない。自分で好きなもの作って、ある程度食べていけたらいいじゃないかって。それでお客さんが他の店の塩ラーメンとは違うと感じてくれたら、自分のやっていたことは間違ってなかったんだって思えますね」

東京から京都に移り住み、独学で料理の道へ

京都に店を構え、暮らしている植村さんですが、生まれ育ちは東京・新宿。大学卒業後に水産会社でのサラリーマンを経験した後、30代半ばで退職し、京都へと移住しました。

植村達夫さん(以下:植村さん)

東京・新宿で生まれ育った植村さんは30代半ばで京都に移住。土地柄に慣れるまではある程度の時間を要したとのこと

植村さんの居酒屋は順調に客足を伸ばしていましたが、思わぬ事態でリタイアを余儀なくされることに。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「体調を壊してしまい、お酒が飲めなくなってしまったんです。それで店を板前に譲り、お酒を出さない飲食店をやろうと。そばかラーメンで迷って、もともと好きだったラーメン屋に決めました。それが47歳の時。北海道や東北で食べてハマった塩ラーメンの専門店として勝負することにしました。ただ、塩ラーメンなんて、みんなインスタントの袋麺ぐらいでしか知らなかったし、当時の京都は背脂醤油の一択だったから、『絶対に無理、失敗する』なんて、よく言われていました」

かくしてオープンした風花は、渾身のラーメンを提供しているにも関わらず客足が伸び悩みます。原因を考えた植村さんは、京都の気候にその答えを見出しました。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「僕がラーメン修行をしていた北海道の沿岸部って、寒いから体温維持のために塩分を多く摂るんですよ。だからどの食べ物も結構塩辛い。僕もサラリーマン時代の出張や修行で行っていたときは、そこに気づかず食べていたけど、京都って真逆の気候で、夏はめちゃくちゃ蒸し暑いでしょ。開店したのが8月だったので、そんな時に北海道仕込みの塩辛いラーメンなんて、とても食べられない。気候による味覚の違いに気づいたことで、しばらく店を閉めて味の改良に没頭しました」

唯一無二の味を誇る塩ラーメンは、さまざまなメディアで話題となり、ラーメン関連のムックで高い評価を獲得

改良を経て、みごとに生まれ変わったラーメンは、たちまち話題を呼び、客足も日に日に増していきました。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「さっき言った塩水を取り入れたり、京都の季節感をしっかり体で把握できるようになったことで、突破口が開けました。再オープンしてから、グルメ系のサイトでやテレビで紹介され、ようやく認知してもらえるようになって。京都のお客さんは、受け入れるまで時間はかかるけど、いったん認めたら、ずっと通ってくれる。ここで根付いたらどこでも商売やっていけるんじゃないかなって思います。まあ周辺に創業200〜300年の店がたくさんある中で、僕みたいな新参者が言うのもおこがましいけど(笑)」

入り込む余地がないと言われた京都のラーメン業界で20年にわたって風花が支持を受け続けている背景には、作り方だけでなく食べ方に対するこだわりもありました。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「うちの店では、食べる時に読書や携帯電話を触ることを禁止しています。何かを見ながら食べるって作った人に失礼でしょ。ラーメン屋がそんなにえらいのかって思う人もいるだろうけど、こっちは真剣にやっているから、お客さんにも真剣に食べてほしい。料理に対する評価は正当なものがほしいから。そんなこと言うから、最初は某大型掲示板でめちゃくちゃ叩かれてね。もう慣れちゃったけど(笑)。あと、ある程度味がわかってから食べてほしいので、小学生以下は入店をお断りしていて。常連の方でもお子さんが7歳になって一緒に来てくれることがあるけど、そういうのは、やっぱり嬉しいですね。長いこと店やっていて本当に良かったなって思います」

唯一無二の塩ラーメンを伝承するために

現在、奥様と2人で店を切り盛りされている植村さんですが、唯一無二の味を後世に残すべく、後進の育成も計画しています。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「最近になって、僕の持っているものを全部教えてもいいかなという人が現れました。彼が今の仕事を2021年いっぱいで終えるのを待って、年明けから修行を始めようと思っています。飲食での職歴はないけど、ものすごい情熱を持っているのと、40代ということで最後の勝負をかけたいという心意気に惹かれたので頑張って欲しいですね。ただ、これまでにもうちに来て、スープの仕込みなどで挫折した人が何人もいるから、最終的に試験をして、納得できたらということではあるけど」

カウンター10席の店内は常に満員状態。特に昼時は行列必至

また、自身の進退については、こんなビジョンも。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「僕も今、67歳だし、後継者候補を育てながら、現役でやれるのはあと5年ぐらいかな。自分ではまだまだやれると思っても、味覚って年齢を重ねると変わってしまうから。日常的に食べるものを作っていて、この変化を感じたら潮時かなと思っています。今はまだ、毎朝、自分で作ったスープを飲んでOKを出せているから大丈夫かと思うけど。ただ、代替わりして、『先代のほうが良かった』って言われるのは、ある程度は仕方ないけど、この壁は、絶対に乗り越えてほしいです」

「現役はあと5年」と語る植村さんですが、メニュー開発への意欲はますます高まっています

リタイアの時期も見据えているという植村さんですが、料理に対する愛情には一点の陰りもなく、新たなメニュー開発にも貪欲に取り組んでいます。

植村達夫さん(以下:植村さん)

「お重などを使って、京都っぽい懐石風のつけ麺を作りたいと考えています。ちょっと自分の思考を変えたいのと、お客さんのリクエストもあったので。あと、餃子も準備中で、調理用の機械もすでに購入済み。冬は期間限定で味噌ラーメンもやっているけど、これも味噌から仕込んで麺も専用のものに変わるので、おいしいですよ。そういうのをTwitterで告知すると、みんな狙って来るから2代目は大変だね(笑)。もちろん、そういったものも全部マニュアル化して2代目に継承するつもりです」

風花の最寄り駅は地下鉄四条駅、もしくは阪急烏丸駅。大通りの喧騒から離れた静かな街角に店を構えています

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新宿めんや 風花

新宿めんや 風花

マイルドな塩スープと自家製麺が味わえる塩ラーメン専門店。丼メニューや味噌ラーメンなど、期間限定メニューなどが告知される店の公式ツイッターも要チェック。

新宿めんや 風花

住所/京都府京都市下京区高辻通東洞院東入三軒町551 アンクル烏丸高辻

電話番号/075-344-6623

営業時間/11:30〜14:00、18:00〜22:00

定休日/不定休

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