茶道の精神でリスナーとの距離を縮め、対話するようなひとときを

DJ・パーソナリティ | 池田 なみ子

『FM COCOLO』のDJとして活躍。包み込むようなトークで魅了する池田なみ子さんが、リスナーと季節感ある番組作りのきっかけとなった茶道、和文化への思いを語ります。

池田 なみ子

DJ・パーソナリティ | 池田 なみ子

大阪出身。関西でDJとしてデビューし、東名阪の主要FMステーションで活動。現在はFM COCOLO「Wonder Garden」(月曜〜木曜 14〜17時)にてメインパーソナリティーを担当。日本文化の他、ロックや舞台芸術全般に造詣が深い。(※このインタビューはオンライン取材で行いました)

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親子3代で受け継ぐ和の心。

東名阪の主要FMステーションで活躍し、現在はFM COCOLOを代表するDJの1人としておなじみの池田なみ子さん。「パンクやハードロックが大好き」という音楽的志向とはうらはらに日本文化への造詣が深く、中でも茶道への思い入れはひとしお。池田さんの精神性にも大きな影響を与えたという日本文化や茶道と出会ったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

母が三味線を教えていたので着物が身近にあったんですよ。それで家にあった着物について母や祖母と会話をする中で知識が入って、どんどん興味が広がっていきました。食事や歌舞伎にも着物で行ったりしていたのですが、所作などもっと深いところを知るなら茶道がいいねということで、15年ぐらい前に友達と一緒に習い始めました。正直、最初は敷居の高さを感じましたが、いざ始めてみると、気遣いや食事の際のマナーなど日常とリンクしているというか、茶道って心配りや思いやりの真髄なんだなということが分かったんですよね。

先生宅でのお茶のお稽古の様子。着物の柄は、小菊の小紋で(※小紋…全体に小さな柄が施された柄行きのこと)

季節を先取りする日本文化の粋

茶道に感銘を受け、季節の移ろいにも敏感になったという池田さん。DJの仕事にもその要素を取り入れることで、トークの話題に広がりが出たのだとか。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

番組でよくお花の話をするんですけど、路肩の小さな花にも季節の移ろいを感じられるようになったのは、細やかなことにも気を配る茶道のお稽古を続けたからかも知れません。季節の花の話題などはリスナーの方からメッセージを頂く事も多く、嬉しい反響を感じています。

また、茶道をはじめ日本文化には、昨今のメディアや情報網とは違い、ゆっくりと時を楽しむ趣があります。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

四季を楽しむ文化の中、物事を『走り・旬・名残』と言う概念で捉えます。着物や帯や室礼、茶道ならば道具や床の間の掛け物、飾られた茶花で季節を少し先取った柄や意匠のものを選び、やがて目にする新しい季節の訪れを心待ちにするような『走り』が粋だとされています。例えば、新年に開催されるお茶会・初釜では梅の花が描かれたおどうぐが使われる事が多かったり、2月に春の花の絵柄の着物や帯を身につけると、それを見た人が『春の花の季節も近いなぁ』と思い気持ちが動く。これも一種の思いやり、心配りの美学なのですね。

茶道に必要な茶道具のひとつ茶釜。釜や水指、茶筅など簡単な道具を揃え、自宅でのカジュアルなお手前で友人をもてなす事もある

先生の自宅に飾られているお茶碗。格調の高さを感じさせます

緊張とカジュアルを使い分ける茶の湯の醍醐味

茶席と聞いて感じるのは、やはり背筋が伸びるような非日常的なイメージ。四方を囲まれながら小宇宙のような広がりも感じさせる独特の空間には、どのような空気が流れているのでしょうか。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

先生の催す茶会では茶室に日常で手にする事のない驚くほど高価な物を使わせていただく事もあり、茶碗ひとつ扱うにも独特の緊張感があります。しかし、茶道の精神自体は日常に近く、たとえば夏の暑いさなかでも、お茶のお稽古をすると気持ちがシャキッとするなど、『目線や考え方を変えると自分を正すことができるよ』と教えてくれているような気がしますね。

表千家に入門した証にいただいた扇子

自宅では仕事前にカフェオレボウルと茶筅で簡単にお茶を立て気持ちを立て直す事も。茶道とまでは行かずとも、お抹茶を楽しむ感覚ならばビギナーの方もお茶の世界に足を踏み入れるきっかけとなるかも知れませんね。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

かつて豊臣秀吉が催していた茶会などは、今で言うフェスのような賑やかさだったようですし(笑)、剽げ者(※)が率先してお茶に取り組んでいたとも言われています。堅苦しいと思われがちですが、うまく取り込めば日常を豊かに演出できるツールになると思うので、ぜひ、ちょっとでも触れて楽しさを知ってもらいたいですね。

※ひょうげもの…ふざける、おどけている者を指す言葉。

先生のお宅の茶室での初釜の室礼。柳の枝をくるりと巻いて飾るのが定番

一期一会の精神が生み出す、仕事相手とのケミストリー

長年、DJとしてラジオの第一線で活躍を続けてきた池田さんですが、ある時期を境に仕事に対するスタンスを変え、そのことが活動を続けていく上での大きな原動力となっています。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

昔は『どんな番組をしたいか』にこだわっていましたがキャリアを重ね次第に『誰と仕事をしたいか』と言う思いに変わってきました。そうする事で相手への愛情や感謝の気持ちが増し、少々の苦労も厭わなくなる。そんな自分でいられると自らの心も平穏を保てる。今、すごく幸せに仕事ができています。

そんな池田さんが大事にしているのは、常にフレッシュな気持ちを保ち続けること。そこには茶道の精神にも通ずるものがあると言います。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

茶道における一期一会の精神と同じく、ラジオ番組の生放送も一度として同じ放送はありえません。私自身、常に勉強していなきゃなという思いでいますし、そうやってどんどん新陳代謝することで、現場でも新しい空気を生み出していけるのかなと思います。

「20代で道に迷っている人には『誰と仕事をしたいか考えてみるのもいいよ』と教えてあげたい」と池田さん

新たなメディアへの好奇心を常に。

今、話題となっている、音声SNSメディア・clubhouse。気軽にトークを発信できるスタイルがラジオにとって脅威とも言われていますが、プロフェッショナルとして現場に携わってきた池田さんの視点には、業界の進むべき未来が示唆されています。

池田 なみ子さん(以下:池田さん)

clubhouseは私も拝聴したり参加する機会があったんですけど、こういったメディアには怖がらず、どんどん乗っかっていきたいですね。そのためには年齢なりの賢さと年甲斐もない好奇心を同時に持っていなければと思っています。どこで誰が聞いているかわからないという発信力を持っているラジオと、コミュニティ的なclubhouseは全然別物。ラジオ側はその違いを意識してスピンオフ的にclubhouseを使うと、放送では触れられない突っ込んだ話など面白いことができるのではないかと感じています。

音声SNSメディアと共存する未来にラジオの可能性を感じる

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